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番外編 モンラン孤児院の院長②
一緒に孤児院で働くことになった男性ポデルは平民で、数年前の土砂崩れで妻子を亡くし、一人暮らしをしている。孤児院には通いで来てもらっている。
ソルテは孤児院の中にある住居に個室で、数人の女性たちは共同部屋で暮らしている。
ポデルは寡黙で口数も少なく、表情も乏しいので喜怒哀楽が読み取りにくい。
黙々と仕事をしているが、仕事は早くてとても丁寧だった。
柵の直しや庭の手入れ、花壇の増設や壊れた家具の修理、荷物の運搬など男手はとても助かった。ソルテにとって身近で頼もしい男性は初めてだった。
「ポデルさん、扉の鍵が外れているので修理をお願いしてもいいかしら?」
「はい」
ソルテはポデルを頼っていた。ポデルもソルテの依頼にはいち早く対応した。
二人は言葉を交わすことは少なかったが信頼関係を築いていった。
一年ほど過ぎポデル宛てに手紙が届いた。
ポデルはベリル王国の西側にある商家の出身で、地元の幼馴染みと結婚して独立し、自らも小さな商会を立ち上げていたらしい。
災害で妻と子どもを亡くし、自暴自棄になり、知人に商会を任せ、ラミール教会で奉仕をしていたところ、コンセ司祭の薦めがあり、モンラン孤児院の仕事をする事になったらしい。
ポデル宛の手紙には年老いた父の商会を継いで欲しいとの事だった。
跡継ぎはいるが、商会が繁盛して大きくなり、手伝いが必要になったらしい。
ポデルは悩んだ。
まだまだモンラン孤児院で働いていたかった。
ポデルは数日間一人で悩んだが、コンセ司祭とソルテに手紙の内容を打ち明けることにした。
コンセ司祭は実家の商会をお手伝いをした方が良いのではないかと言ったが、それを聞いていたモンラン孤児院の院長であるソルテは、黙って下を向いていた。
ソルテは頼りにしているポデルが居なくなるのが寂しかった。
黙っていたソルテに向かってポデルは、
「よかったら、ソルテ様も一緒に行きませんか?」
「・・」
ソルテはすぐに返事が出来なかった。
ポデル自身もソルテに向かって、何故そんなことを言ったのか分からなかった。
コンセ司祭は暖かい眼差しで二人を見つめていた。
ソルテとポデルは胸の鼓動が激しくなった。
二人は初めてお互いを異性として意識した。
「あのっ。・・わたくしでよろしいのでしょうか?」
照れながらソルテが答えると、
「はい。俺と一緒に来てください」
そう言うとポデルは右手をソルテに差し出した。
「はい」
ソルテは大きく頷きポデルの手を取り、小さな声で返事をした。
ポデルとソルテはポデルの実家の商会を手伝うために孤児院を辞め、王都を離れることになった。
ソルテは自分の能力を活かし更に商会を繁盛させ、ベリル王国の西の豪商となった。
ソルテはポデルとの間に男の子を授かり、その息子は更に商会を繁盛させた。
ソルテは商会を通じ、再婚して今はドーレ男爵夫人で妹のように思っていた女性と、お互いに往き来し、いつまでも仲良く縁を繋いだ。
息子に商会を任せたポデル夫婦は、仲睦まじく余生を送った。
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