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番外編 若きジーン・ミランジュ③
イディオ伯爵令嬢はぎこちないカーテシーをしてジーンの元を去って行った。
噂話を放置していた自分にも非があるので、ジーンはイディオ伯爵領にも他と変わらず支援するつもりでいた。
ふぅーっと溜め息をつき、エテルノと話がしたかったジーンはアドレ子爵の元に向かうことにした。
少し離れた所にエテルノが見えた。
エテルノは華奢だが姿勢がよく笑顔を絶やさずに領主たちと歓談をしていた。
今まで見てきた強欲な令嬢たちとは違い、品がよく清楚な出で立ちだった。
宝石も身につけず華美な装いではないが、彼女が言うようにドレスの素材は一目で分かる上質なものだった。
商売に敏いジーンは直ぐに見抜いていた。
「アドレ子爵令嬢。先程は不愉快な思いをさせてしまった。主催者として謝罪する」
「勿体無いお言葉です。わたくし全く不愉快などとは思っていません」
「いや。私が噂の事を否定しなかったことが原因なのだ」
「噂ですか?···あっ、花嫁候補ですね。子爵家の娘のわたくしなど、お目に止まる筈がございませんのに···ふふふ。お父様、先程ミランジュ伯爵様に助けていただきましたの」
「それは、それは。ミランジュ伯爵様。娘を助けていただきありがとうございます」
アドレ子爵とエテルノは二人で頭を下げた後、顔を見合せ微笑んでいた。
数秒、ジーンは言葉に詰まった。
エテルノの笑顔に見とれてしまった。
「ああ、今日は疲れを癒し楽しんで行ってくれ」
「ミランジュ伯爵様。お伺いしたいことがあります」
「なんだ?」
「先程のイディオ伯爵令嬢の事ですが、彼女の領地にも支援をなさるのですね?」
「ああ、勿論だ」
「良かったです。ありがとうございます」
エテルノはそう言ってカーテシーをして、父親の元に戻った。
今なんと···人前で伯爵令嬢から受けた侮辱は彼女にとって何でもないことなのか?
他の令嬢なら泣いて会場を後にする程の侮辱なのに、しかも相手の事を心配するなどと。
慈愛に満ち品位のある貴族令嬢がここにいた。
エテルノの事を思い胸が苦しくなったジーンが、恋に落ちたことを実感するまでに時間はかからなかった。
エテルノを逃してはならない。
ジーンはパーティーの後、直ぐにアドレ子爵の事を調べていた。
現在エテルノには婚約者がおらず、年は7才下の17才で、アドレ子爵家には弟が二人いて後継ぎには問題ないようだ。
ジーンが妻に迎えるのはエテルノしか考えられなかった。
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