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番外編 若きジーン・ミランジュ④
ガーデンパーティーから二週間後、被害状況の視察を兼ねてという名目でジーンはアドレ子爵領を訪れていた。
ジーンの気持ちは決まっていた。
この視察中にエテルノを妻に迎える準備があることを、父親のアドレ子爵に伝える事。
家格下の子爵家が伯爵家の婚約の申し出を断ることが難しいのは常識だが、ジーンは無理強いをしたくなかった。
ましてやエテルノの気持ちを無視して、支援をちらつかせながら人身売買のような求婚などしたくもない。
ジーンは純粋にエテルノの気持ちが欲しい。
政略ではなく恋愛という名のもとに結婚を希った。
ジーンはアドレ子爵に婚約の話をどうもって行くか悩みに悩んでいた。
残念なことにエテルノは王都に滞在していて、本人に会うことは叶わなかった。
アドレ子爵との会話の中で、エテルノに婚約者がいない理由を聞いてみた。
予想通り裕福でない子爵家では、エテルノに充分な持参金を持たせてやれないという理由だった。
夫となる男性への支援や妻になるエテルノの財産になる持参金は、今の子爵家には用意できないようだった。
娘の結婚よりも領地の立て直しにいくらかかるかわからないでいる。
元々水害が起こりやすい地域でもあり、少しでも資金に余裕があれば、復興や災害防止対策に費やすことになる。
婚期を逃してしまうかもしれない愛娘を不憫に思いながら、これといって何もできない自分が腹立たしいとアドレ子爵は悔しそうに語っていた。
ジーンは、私の元に嫁いでくれるのなら、持参金など用意せず逆に支度金を贈ろうと···言いたかったが言葉を飲み込んだ。
アドレ子爵の気持ちを考えると容易に言って良い言葉だとは思わなかった。
代わりにガーデンパーティーでのエテルノの振る舞いに感銘を受けたと言った。
慈愛に満ち品位のある令嬢だと。
エテルノは学園に通っていないようだったので、よい家庭教師を迎えられたのではと言うと、母親の教育のお陰らしい。
ジーンは脱帽した。
勉強は学ぶ場所ではなく、本人の習う気持ちがあれば、どこでも学べるということか。
学園を出たと言っても件の伯爵令嬢の事もある。
エテルノの事を知れば知るほど深みに堕ちていくように惚れ込んでしまう。
今さらエテルノを他の男に渡すことなど出来ない。
筆頭伯爵家当主のジャンは初めて国王陛下や高位貴族以外の人物に深く頭を下げた。
「アドレ子爵。どうかエテルノを私の妻に下さい」
アドレ子爵は戸惑い、とにかく頭を上げてくれと懇願していた。
アドレ子爵に落ち着くように言われ、応接室のソファーに座りお茶を飲んだ。
アドレ子爵は一言
「妻はエテルノだけにして下さい」とだけ言った。
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