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番外編 若きジーン・ミランジュ⑤
ジーンは『妻にするのはエテルノだけである』と、アドレ子爵に誓った。
ジーンはエテルノに求婚する前に父親からの承諾をもらい、視察の仕事を終え王都に向かった。
王都に向かう馬車の中でエテルノの事を考えると我を失ったかのようになった自分の行動が信じられないでいた。
いつもの自分はいかなるときも冷静に物事を判断し決断する。
今まで生きていた中でここまで動揺したのは初めてかもしれない。
ジーンは自分の心をかき乱すエテルノの存在に恐怖さえ感じていた。
エテルノを前にしてどうなるか想像が出来ないでいる自分が彼女に会って、普通に求婚できるのだろうか。
ジーンは王都のミランジュ伯爵邸に到着した翌朝、執務室の机に向かってエテルノ宛に会う約束を取り付ける旨の手紙を書いていた。
手紙を書き終え使用人に渡すと大きな溜め息が出た。短い文面の手紙を書くだけなのにとても疲れていた。
窓からは日差しが強く照りつけている。
太陽は真上のようだった。
朝早くから書き始めた手紙を書き終えたのは、お昼に近い時間だった。
「俺はこんなに仕事が遅かったか···」
ジーンは小さく呟いた。
ジーンはエテルノとの待ち合わせに王都で流行りのカフェの二階部分を貸し切り、ゆっくりと話が出来るようにした。
エテルノは今日も質素ではあるが質の良い生地のドレスを着ていた。
「本日はご招待いただきありがとうございます」
エテルノは品の良いカーテシーを見せて微笑んだ。
「アドレ子爵令嬢。呼び出しに応じてくれてありがとう。こちらに掛けてくれ」
エテルノは「はい」と小さく返事をしてジーンの向かいの席に座った。
「令嬢の父上のアドレ子爵殿に打診したのだが···令嬢は···私の妻になってくれるだろうか?」
「ミランジュ伯爵様の奥様にですか?私などで良いのでしょうか?」
「私の妻は···貴女以外に考えられない。返事は直ぐでなくても良い。考えてくれるだろうか?」
ジーンは真っ赤な顔で真剣にエテルノに話していた。
「ふふふ。伯爵家のご当主様が考えてくれだなんて。子爵家の娘が断れる筈がないですわ」
「俺は命令はしたくないんだ。金に物を言わせるのも嫌なんだ。貴女の気持ちが知りたい」
「わたくしのことはエテルノとお呼び下さい。わたくしでよろしければ喜んでミランジュ伯爵様の妻になりますわ」
「えっ···本当にいいのか?伯爵家に嫁げば気苦労をかけてしまうかもしれない」
「はい。伯爵様がこんなにもわたくしのことを気に入って下さるのですから、そのお気持ちにお答えしたいですわ」
エテルノの言葉を聞きジーンは暫く放心状態になった。
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