ひとりの花見

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 ──私は、この日、幸せな一日の終わりを迎えることができるなんて、夢にも思っていなかった。  車を運転してたどり着いたのは、花見の名所の一ノ谷公園だった。自転車でも行ける距離だけど、荷物が多いと車が便利だ。  やはり、ネットやニュースを毎日確認していただけあって、計画通り、桜は満開だった。木々の間を縫うように輝く春の日差しが、花弁の一枚一枚を繊細なピンクの光に染め上げていた。  公園の中は、まるでピンク色の雲が地上に降りたかのような、幻想的な景色が広がっている。風が吹くたびに、花びらが静かに宙を舞い、桜吹雪が舞い散っている。  早朝から場所取りをした花見客たちは、敷物を広げて、特等席で家族や友人たちと団欒を楽しんでいる。  和やかな春の暖かさと桜の美しさを演出するのに、彼らは一役かっていた。昼間から酒を飲み、人々は時間がゆっくりと流れているのを満喫している。  私は、その横をひとりですり抜け、誰もいない公園の端の斜面にレジャーシートを広げた。 「あれほど、この日は予定を入れないで、と念を押していたのに」  つい、娘の沙耶を呪うように愚痴がこぼれた。こんな母親だから、相手にもされなくなるのだろう。  缶ビールを開けた。  蓋が丸ごと取れるタイプで泡立った。泡があふれる前に、一気に喉を鳴らして半分を飲んだ。  
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