モノがついておりませんけど……

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モノがついておりませんけど……

   貴族になんか生まれなければよかった、いっそ男に生まれればよかった、そう思う貴族の令嬢は多い。しかし、男のモノもついていたらよかったのに、と思う令嬢は少ない。  リリアムは壁に押し付けたメイドの耳を噛みながら、やっぱりついていた方がいいな、とぼんやりと考えていた。  女の子は柔らかい。優しいし、可愛い。汗臭くないし、いい匂いもする。  メイドの乱れた声が聞きたくて、さらに敏感なところへ手を伸ばそうとした時、小部屋のドアが開けられた。大きな影が差し、誰かが小部屋に入ってくる。 「ガーウィン、書類を出しに行くのに、どれだけ時間がかかっているんだ」  ついこの間、リリアムの上司になったグリア・グッドヘンは、リリアムがメイドに襲いかかっているのを見ても眉ひとつ動かさない。それどころか、追加の書類を入口の台の上に置くと、部屋から出て行こうとする。 「あの……先輩、怒らないんですか?」  絶対に怒られると思っていたリリアムは、白っぽい色彩の、大きな体躯(たいく)に問いかける。 「怒ってどうなる、仕事が片付くのか?」 「あらぁ」  リリアムは声を甲高くして口元に手をやった。こんなことをしていて叱られなかったのは初めてだ。 「だが、そうだな……孕ませるようなことはするな」 「……それは、ええと、はい」    リリアムは何と答えていいかわからず、頷いてメイドの服を整える。 「先に戻っている。仕事はしろ」  グリアはそう言うと、踵を返した。言い訳もさせてもらえずに懲罰を受けてはたまらない。追いすがって状況を説明し始める。 「あの、あの、あのですね、女の子を噛んでたのは――」  リリアムの言葉を聞いている様子もなく、グリアはポケットから何かをとりだす。  差し出された大きな手には薬包紙に包まれた、どす黒い色の丸薬が載っていた。 「これをやろう」 「……なんですか?」 「性欲が減退する薬だ。勃たなくなって仕事が捗る」    リリアムが小首を傾げると、まっすぐに切られた前髪がさらりと流れて、好奇心の強そうな黒い目がのぞいた。 「そう言われましても、モノがついておりませんけど……」  もしかしたらグリアには自分の素行の悪さどころか、性別すら気にされていないのではないか、そう思うと、リリアムは新しい上司に俄然(がぜん)興味が湧いてくる。
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