私、器用なのでっ!

1/4
前へ
/230ページ
次へ

私、器用なのでっ!

 グリア・グッドヘンはほとんど技術振興部の建物から出ることがない。  リリアムという手足を得て、グリアの引きこもりは加速していた。  グリアが今までのような話のわからない上司ではないと知って、リリアムはグリアにまとわりついている。グリアとしても、リリアムの使い勝手のよさに、雑談に応じるくらいには態度を軟化させていた。  今日のリリアムは、どこかに出向する予定もなく、部室で雑用をしている。  グリアに指示された雑用は終わってしまって、怪しい塗り薬を擦り傷に塗られて治り方を観察されたり、馬車にとりつける発明品の良し悪しを試したりして過ごしていた。リリアムが思っていた以上に技術振興部の仕事は楽しい。  だんだん食堂へ向けて廊下を通る人数が増えてきた。そろそろ昼時だ。  リリアムはまだ部室にいる。空腹で腹も鳴っていた。かと思えば、ちらちらとグリアに視線を送っている。  おかしな様子のリリアムに、グリアは思わず声をかけた。 「ガーウィン、今日は食堂に行かないのか?」 「あの、先輩はお昼、どうしてるんですか? いつもここにいるし、何を食べているのか気になって、見張ってるんです」  ありがたくないことに、リリアムは、珍しい虫を捕まえた子どものような顔をしている。 「余計なお世話だ。俺はここで摂る。お前もさっさと食べてこい。時間の無駄だ」 「本当に食べてます? 食べた様子がないから気になっているんですよ」  リリアムは気になったことに対してしつこい。子どもの頃、リスの交尾を観察するのだといって三日三晩外を駆けずり回っていたこともある。  グリアがリリアムとの遊びを受け入れた日以来、リリアムにとってグリアは面白い観察対象となった。  リリアムは大食いだが、グリアの食事風景を観察できるなら、今日は乾パンでしのいでもいいとさえおもっている。 「そこに水が用意してある。俺は干菓子で昼食をとるから問題は無い」  グリアはそう言うと、乾燥剤を入れたブリキの菓子入れを、持っていたペン軸で叩く。  どうやら仕事を続けながら食べるらしい。  リリアムが菓子入れを開けてみると、定規で測ったように四角く切り分けられた暗褐色の何かが入っていた。とても菓子には見えない。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加