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騎士になったばかりのリリアム・ガーウィンはどの隊からも爪弾きにされていた。
リリアムが騎士団にとって初めての女性騎士だからでも、その父が鬼教官として知られるウィリアム・ガーウィンだからでもない。すこぶる素行が悪いからだ。
リリアムは騎士団に入ってすぐ、年若い訓練生に混ざって訓練をすることになった。訓練生は、騎士になる許しを待つ貴族の坊ちゃんばかりだ。
リリアムのことは、すぐに問題になった。訓練の後に、若い訓練生に悪い遊びを教えはじめたからだ。
娼館での遊びなど知らなかった初心な若者を丸っと玄人に預けて、大人にしてしまったり、少々特殊な自慰を教えられて、新たな扉をこじ開けられる者が出たりーー訓練場の風紀は乱れた。
団の規則ではリリアムを取り締まることは出来ない。懲罰としてきつい訓練を受けるくらいではリリアムは止まらなかった。
結局、毒牙にかかった本人ではなく、その縁者からの訴えで、若者がいない女性の王族の警護に配転された。
もちろん騒ぎは収まらない。そこで働くメイド達がリリアムに群がり、諍いが起きたのだ。
リリアムは、相手が嫁に行けなくなるような悪さはしないが、それ以外の官能的な遊びは好んで参加した。さすがに、けしからんと、警邏隊に移動になると、今度は娼館の女たちの相談相手として引っ張りだこになって、ちっとも帰ってこない。
困った上官が、リリアムが来たら追い返すようにと花街に通達したら、抗議文がたくさん届くありさまだ。
次は、情操教育をすべきだと誰かが言いだして、リリアムに道徳の本を読ませる時間が設けられることになった。読書時間に、リリアムが艶本を読みながら図書館の司書を口説いているのがバレて、数日でまた別の場所に移された。
リリアムの起こす騒ぎは、その後も続いた。
それでもリリアムが騎士を辞めさせられなかったのは、彼女の屈託のない性格と、凛とした美貌もさることながら、騎士としての評判の良さだった。
リリアムは騎士の仕事だけは熱心にこなしている。
任務に就けば老若男女に優しく、悪に鉄槌を下す美しい騎士だ。
「残念なことに、性的なことに理性が働かないのだ」と誰もが付け加えた。
男女隔てなく愛するリリアムに、上司となる隊長は、必ず胃や頭を抱えることになる。
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