君だけが頼りなのだ

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 「はぁ」  グリアは肯定とも否定ともとれる相づちを打った。  ウィリアムはそう言うが、リリアムがまともになったという言葉が、ちっともまともではない。  この間は、この玩具で遊んでくださいと、魔石が埋められた棒のようなものを持ってきた。  結局、読書の間にリリアムの自慰を見守ることになったが、やけに感謝されたのを思い出す。  見守る行為が特に退屈だったというわけでもないが、あれがまともかと問われれば、やっぱりまともではない。 「あ奴め、最近、出勤前にいそいそと厨房で料理人に昼食を作らせておるのです。それどころか焼き菓子などは自分で焼いているくらいだ。君の為に作っているのだろう? こんなことを尋ねるのもなんだが、君は娘と良い仲なのだろうか? もしや、その先の望みはあるのだろうか、なぁ、グッドヘン君!」  立ち上がったウィリアムにテーブル越しに肩をつかまれ、ガクガクと揺すられる。覚えのある馬鹿力だった。 「誤解です。私が食事をおろそかにしていることを部下として気にかけているだけでしょう。他意はありません」  グリアは至極まともに反論した。  リリアムはグリアにかまわれたいとは思っているだろうが、恋人になりたい、結婚したいと思っている様子は微塵も感じられない。単にリリアムの好奇心の延長だと認識している。 「いいや、アレは人の好き嫌いなどを気にかけるしおらしさなど持ち合わせてはいないのだ。他人の昼食のために、毎日あれこれ試行錯誤していることが異常だ。君は娘にとって何かしら特別な存在に違いない!」  表情には出ないが、ウィリアムの圧のある語調にグリアは怯んだ。  グリアよりは小柄なウィリアムだが、その筋力はいまだ健在だ。今度はグリア側のソファに移動してきて、手指の跡がつかんばかりにグリアの二の腕を掴んで揺さぶる。 「ニコラ・モーウェルと――いや、今はカルセルトでしたか――転属したときの約束で、部から追放されないように、大人しくしているだけだと思いますが」  どうやら、リリアムの想い人だと勘違いされたようだが、必死に否定した所でウィリアムが引き下がるとは思えない。  リリアムの奇行をウィリアムに訴えれば誤解は解けるかもしれないが、グリアも少々楽しんでしまっているところはある。方針がまとまるまで口を閉じていると、早合点したウィリアムが次の一手に出る。
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