小遣いをやるから

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小遣いをやるから

 リリアムにとって恋愛は遊びだった。  気楽な相手と性欲を満たしたり、睦言(むつごと)を言い合って盛り上がったり、それで十分楽しかった。  体を持て余した有閑マダムなら喜んで相手するが、略奪や割り込みは好まない。刺激的な遊びは好きだが、足枷になりそうな関係は楽しい遊びにはならない。  リリアムは、うっかりニコラの想い人に手を出してボコボコにされたことがある。  遊び相手の人選にはかなり気をつけていたが、見た目が好み過ぎて理性が働かなかった。ところが、のめりこんでいたにもかかわらず、ニコラがいかに彼女を愛で、固執しているのか知ったとたん、一瞬で目が覚めた。  人が執着しているものには、ちっとも食指が動かない。  遊びでなくなった恋愛は苦手だ。手慣れてきてからは、いつも引き際を考えて遊ぶようになった。今度だってそのはずだった。 「先輩、本当に私のことが好きなのかなぁ?」  グリアに直接手紙の真相を尋ねようか迷っている間に、警邏隊から呼び出されて街へ出ることになってしまった。独居の老婦人を訪ねる用事があるようだ。  訪問してみたところ、リリアムのことが気に入ったようで、いつまでも引き留められた。  ほかの騎士が先に帰った後も、戸棚の立て付けが悪くなって困っているとか、高い所の食器が取り出せないから手伝ってくれなどと頼まれる。それでもリリアムは始終騎士らしく振舞い、機嫌よく婦人の用を済ませた。  訓練などでは悪童のようなリリアムだが、騎士の仕事には誇りを持っている。  騎士服を着たら理想の騎士としてふるまうことに何の矛盾も感じていない。    やっと技術振興部に帰った時には、とっくに手紙は片付けられていた。手紙が載っていた机には「医務室へ行っている」と走り書きが残されている。  自分宛にまとめられた手紙を確認してみたりもしたが、恋文がリリアムに届けられた様子はない。  リリアムは届くことのなかった手紙の行方を考えてみた。  捨てたのか、それとも別の人に送ったのか、行方が気になる。  どうせなら、このまま存在しなかったことになればいいとも思う。  手紙にあったようにグリアが真摯にリリアムを想っているとしたら困るのだ。  大変惜しいが、今の関係は続けられないだろう。  ウィリアムが縁談を持ちかけたこともあるし、本気になられたら大事になる。
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