小遣いをやるから

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「まあ、まだそうだと決まったわけじゃないし。ほら、別のメイドに書いた手紙だったかも?――ああ、だとしたら想い人がいるのに遊んでもらってることになっちゃうか……」  楽観的に考えようとしても、うまくいかない。  ブツブツ独り言を言っていると、グリアが実験器具らしい道具を両手に抱えて部室に入ってきた。  服から消毒液の匂いがするので、医務室に長居していたのだろうとリリアムは推測した。 (医務室には女性が出入りしてるよな。ひょっとしたら医務室の人が先輩の想い人……?)  グリアが自分に対して恋心を抱いているのも困るが、別に恋人がいるというのも、なんだか少し面白くない。 「ガーウィン、帰ってきていたのか。まだ運ぶものがある。ボーっとしていないで手伝え」    グリアの様子は変わらない。いつものぞんざいな命令口調にホッとする。 「呆けていたわけじゃありませんよ。ちょっと悩みがあって」 「なんだ? 解決法が思い付かないのか?」  グリアの仕事は様々な事柄の解決法を考えることだ。  手紙についての解決法なら秒で弾き出すに違いない。しかし、今回に限って、リリアムはすぐに答えをだしてしまうのが勿体無いような気がしていた。 「そういうんじゃないんです。もっと情緒的で入り組んだ話で。でも、私だってもうそこそこ大人なので、いいやり方を知っているんです。今は答えを出さない、って方法なんですけどね」    おどけて肩をすくめてみると、グリアはリリアムの方針を一蹴する。 「くだらんな。問題解決を後回しにするのは愚策だ。そう言っている間に、手遅れにならなければいいがな」  今ここで、グリアに手紙の真相を聞いてしまう事も出来た。その場合、リリアムは技術振興部から去ることになるかもしれない。 (それは嫌だなぁ……)  リリアムは黒魔術隊を気に入っている。仕事も、遊びも、よい距離で付き合ってくれるグリアは、リリアムにとって良い上司だ。 「とりあえず、問題は棚上げして、街で知り合った女の子でも抱いて少し落ち着きましょうかね」 「なんだ、そんな話か」  グリアは興味なさそうに言うと、ガラスの管を複雑に曲げて作られた器具を慎重に設置していく。器具と器具を慎重に繋いでいる眼差しは、リリアムに向けるものよりずっと熱のこもったものだ。
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