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「えー、嫌です。私、みんなと一緒に騎士がしたい! わちゃわちゃとっ! イチャイチャと!」
「なら、これっきりにしてくれ。私はしばらく忙しい」
ニコラの声に怒気が混じるが、リリアムは二コラを苛つかせるのが、どちらかといえば楽しみだ。
「私のことがなくても、隊長はいつも忙しいじゃないですか」
「だ、か、ら、ガーウィンに煩わされたく無いといっている」
ニコラは技術振興部のドアをノックして、返事も待たず濃い色で塗られた重い扉を開ける。
密度のある空気を吸い込んで、緑色の匂いがするな、とリリアムは思った。
技術振興部の部室は、あまり明かりが入らない部屋なのに、たくさん植木鉢が置かれていた。淡い葉色の植物の先に、更に淡い色合いの大男が机に向かって書き物をしている。
「グリア、新しい部員だ。ガーウィン教官からは娘が問題を起こさないで済むなら、手段は問わないと許可を得ている。どうしても落ち着かないようなら少し性欲を衰えさせる薬を使え」
リリアムはそれを聞いて貴族女性らしからぬ舌打ちをした。
「あンの耄碌ジジイ……」
リリアムは家でも持て余されていた。
伏せられているが、騎士の指導教官だった父を引退させたのは、リリアムだ。
父ウィリアムは、乱暴で奔放なリリアムを嫁に出して厄介払いをしようとしていたが、それも失敗に終わった。リリアムは多少の事件を起こした末、念願の騎士になったのだ。
グリア・グッドヘンは大きなシルエットにしては印象の薄い見た目をしている。
同期のニコラと比べると目に光がない。覇気もない。動きも緩慢だ。
酷薄な印象だけは強く、石ころを眺めるような目でリリアムを見る。
「ああ、そういう薬なら、ここにも在庫がある」
グリアは引き出しを開けて密封缶から黒い粒を、一粒摘むと自分の口に放り込んだ。
「俺も飲んでいるから、安全性は保証する」
「なるほど、それなら万が一ガーウィンに襲われても成立しないな。グリアが安全そうで何よりだ」
「グッドヘン家の胤をやたらと蒔くわけにはいかないからな」
ニコラは頷いて、リリアムに指を突きつけて最後通牒を言い渡す。
「いいか、ガーウィン、貴様にはここ以外にもう居場所はない。心して働けよ」
「リリアム・ガーウィン、了解しました! 頑張ります!」
「信用ならん」
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