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「ここへはね、いつも一人で来てるんだ」
「そうなんですか」
「うん。夕方は人が少ないから、ちょうどいいの。私、人混みが苦手だから」
鈴原さんは、照れ笑いしながら言った。
意外だった。そんな風には見えない。
「私ね、昔いじめられてたの」
いじめと言う言葉を聞いて、俺の食事の手が止まった。
学生時代に、クラスの皆から仲間外れにされたこと。
友達が一緒に遊んでくれなくなったこと。
ありもしない変な作り話や噂を流されて、変な目で見られたこと。
学校へ行くのが怖くて、登校拒否になったこと。
俺は箸を置いて、鈴原さんの話を黙って聞いていた。
「中学校は途中から行かなくなって、高校は行ってない。だから中卒なの、私」
時折笑って、思い出話をするかのように話している。
そこで、俺は聞いてみた。
「どうして、アルバイトをするようになったのですか?」
外へ出るのも怖かったはず。
なのに今はアルバイトをして、俺とご飯を食べている。
彼女を変えたのは、何だったのだろう?
「ある日ね、もう考えても仕方ないかなって思ったの」
質問の答えは、すごくあっさりしていた。
「考えることに疲れちゃったんだろうね私。だから、心と頭をリセットしてアルバイトを始めたの。最近のことだけどね」
リセットするだけで、ここまで変われるのか。
いや、きっと鈴原さんは勇気を出して一歩を踏み出したんだと思う。
自分を変える大きな一歩を。
鈴原さんは話を続けた。
「アルバイト先で高野君を見た時ね。思ったの。この子となら会話出来るって。話しかけたら思った通り、高野君は優しい子だったよ」
鈴原さんは笑顔で言った。
その笑顔に悪意が全くない。
嬉しく思える笑顔だった。
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