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「ゴンちゃん」
何で? 夢の続き? 私、また夢見てる? ぽかんと開いた口からやっとたずねる。ペコリと頭を下げて再び豆電球が光った。
「権藤裕介です。やっと言えた、もうさ、思い出したら早く美希ちゃんに名乗りたくて。もうゴンちゃんじゃないから、裕介って呼んでくれる?」
とんでもない。美希は左右に強く首を振る。
「ダメだよ、そんなの。ここに帰ってきちゃダメだよ。奥さんが待ってるよ」
「あのね美希ちゃん。言わなくちゃいけないこといっぱいあって、どこから話していいのかだけど」
遮って、美希は自分が真っ先に聞きたい質問を投げた。
「私のことなんか、忘れたんじゃなかったの?」
「あ、一番にそれだ。ゴメン!」
裕介が美希に向かって勢いよく体を直角に折り曲げた。
「とっさにそういうことにした。美希ちゃんのところ帰りたいから別れてくださいっていうと、モメ事増えそうかなって。ゴメンねオレひどいことしたよね。ホントゴメン、離婚話に巻きこみたくなかったし、美希ちゃんのところに帰れなくなるのイヤだったから、忘れたフリした。ゴメンなさい。やっと、離婚してもらったから。オレが間違ってました、契約結婚やめますってひたすら謝って、ちゃんと離婚届も出してきたから」
開いた口が塞がらないが、裕介がいまだ美希に頭を下げているので、そっと肩に触れて起こした。
「契約結婚、ってどういうこと」
「オレね。遺伝子募集に応募したのね」
目が点になる。
「オレの奥さん、いや元奥さん。理想の子供欲しくて、自分と相性のいい遺伝子持った男探してたんだよ。やることやれば働かなくてもOK、つまり三食昼寝付きでゲームし放題マンガ読み放題っていう募集に、当時いろんなバイトに手を出してどれも続かないヘタレフリーターのオレ、飛びついて。遺伝子で選ばれて結婚したの」
美希は瞬きをくり返しながらも、そうなんだ、と肯いてしまった。
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