21人が本棚に入れています
本棚に追加
「宝くじ当たったみたいな気分で、毎日気楽に遊んでたんだけど。一個だけちょっと不満だったのが禁煙なんだよ。不健康、って元奥さんがタバコ毛嫌いしてて。吸ったら即出ていけって決められてたからさ、やめたのはやめたんだけど。出来心で、久しぶりにちょっとだけ、って留守の間にベランダでこっそり吸ってて、そしたら急に帰ってきてさ。びっくりして慌てて手すりからタバコ投げ捨てて、そのとき勢いつけすぎちゃって、手すり越えて落っこちて記憶失くしたの、オレ」
「ホントに?」
つい聞き入ったが、半年の間に、実はオレ、実はオレ、と何度作り話でからかわれたことか。
「今まで聞いた話の中で、一番冗談みたい」
「だよね。オレも病院運ばれて、意識取り戻したとき全部忘れてたから、元奥さんに一から説明されたけど。腹抱えて笑っちゃったもん」
「ホントなんだ?」
「ホントホント。で、入院中に元奥さんが医者と話してんの聞いちゃったの。たぶんオレ寝てると思ったんだろうな。記憶が戻るかどうかなんてどうでもいいから、体のケガ治ったら退院させますって」
「え」
「いくら何でもどうでもいいはねえだろう、オレには大問題なんだよって腹立ってさ。医者に頼みこんで、ケガ治ってもごまかして退院引き延ばしてもらってたんだけど。もうムリってなったから、退院前日に病院抜け出して、行き倒れかけて、美希ちゃんが拾ってくれたの」
「なんだか、また夢見てるみたいな感じする。記憶喪失とか、契約結婚とか、遺伝子の相性とか、今まで大したこと起こらなかった私の身の回りでそんな、波乱万丈すぎて。夢の中でマンガや映画やドラマがごっちゃになってるんじゃない? 腕つねったら、痛いけど」
「夢なら覚めなきゃいいんだよ。オレずっといるから覚めないよ」
最初のコメントを投稿しよう!