君の為の場所

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 一心不乱に西川溟子の後ろ姿だけを追う圭介は、気がつくまでに時間がかかったが、いつの間にか二人を囲んでいた闇は明けていた。都会のビル群はなく、背の高い木が林立している森の中にいた。景色はぼんやりと白んでいて、周りはやけに静かだ。風一つない。草木は獲物を待ち伏せるみたいに静止している。圭介は、代わりに耳障りな「無音の音」を聞いた。鼓膜の裏で鳴る和太鼓のような音だ。  ――突然の吐き気。立ち眩み。頭痛。身体がバラバラに壊れていく感覚が圭介を襲った。視界が揺れ動き、意識が切れかける。圭介は首の座っていない赤子のように頭を揺らす。何度も倒れそうになりながら、自身に課せられた使命を軸に体勢を保った。
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