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――やっと、見つけることが出来た。特徴も県警のホームページで公開されていた被害者のものと一致している。名前は確か、西川溟子。行方不明者のページで公開されていた写真の通り、顔容の整った女性だ。
圭介はほぼ無意識に彼女に近づき、物の場所を確かめる弱視者のように彼女に手を伸ばした。溟子は口元に微かな微笑みを浮かべて、圭介の手が届くより先に奥の道――更なる暗闇の中へと歩を進めた。
ほんの少し距離が開いただけで、溟子の影が消えてしまいそうなほどに闇は深くなっていく。圭介は彼女を見失わないよう足早に、彼女の背中を追いかけた。狭い視界の上で、靴底が地面を踏む音がこだましている。溟子の足音は当然のように聞こえなかった。まるで音すらも暗闇に塗りつぶされてしまったかのようだ。そこには宇宙空間に広がる、「世界の外側」が存在していた。圭介は気が付く。自分は今、元いた世界から隔絶されてしまったのだ。自分でも知らないうちに、空間を切り取られてしまったのだ。そして息吹が埃を飛ばすように、自分が認知していない場所に飛ばされてしまった。
人間とは――生命とは眇眇たるものだ。我々は、不条理に働きかけてくる大きな力に、抗うことはできない。例えば、それは時間であり、天命であり、神秘である。
そして、圭介にとっては、目の前を歩く西川溟子こそが不条理な力であり、彼女が自分を誘おうとしている場所こそが、彼女の力の源泉であった。圭介はその泉に強く惹かれている。彼の足は溟子を追い越してしまいそうなほどの勢いを持っていたが、不思議と距離が縮まることはなく、彼女とは常に一定の間隔を保っていた。
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