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土下座から始まった
「すみませんでした」
衣替え移行期間の六月上旬、昼休憩中。
五桜学園の保健室では一人の男子生徒が土下座していた。
「もういいから、気にしないで。顔を上げて。ね?」
呑気に椅子に座っているわけにもいかず、園田菜乃花は床に両膝をつき、土下座している男子生徒の肩を優しく叩いた。
足を畳み、深々と頭を下げている男子は1年G組、天坂千影。
昨日から夏服に着替えた菜乃花とは違い、まだ冬服のブレザーを着用した千影は、黒縁の眼鏡をかけた地味な男子だ。
人畜無害、根暗、空気、冴えない眼鏡。
ああ、そういえばいたかしらそんな人。
彼について尋ねると、誰もが手厳しい評価を下す。
学年主席でスポーツ万能、あらゆる分野でトップの成績を叩き出す完璧超人、兄の天坂総司とは対極の存在、まさに光と影だと。
千影に関するエピソードとして最も印象に残っているのは、半月前の女子の告白だ。
彼と同じクラスの女子が放課後、屋上に彼を呼び出して告白したらしい。
――好きです、付き合ってください。
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