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またたび君
「………はぁ………迷子になったわ…。どうしましょう。」
黒髪ストレートの少女は道端で顎に手を当て、首を軽く傾げている。
現在進行系で迷子中の私は黒音 リリ《くろね りり》。
好きなモノは恋愛漫画、嫌いなモノはチョコレート。これはそんな私の物語…。
私は見ず知らずの道を歩き続ける。
桜舞い散る並木道を背後に、高校を探していた………はずだったのたが………。
T字路を左に曲がった瞬間、「きゃっ!」「あいたっ!」人とぶつかってしまった。
「いてて…すみま……。」
私は即座にぶつかって謝ろうとしてきたヤツに文句を言う。
「いったいわね!何処見てんのよドアホ!」
私は言い切った途端に今現在のシチュエーションについてよく考える…。
街中のT字路………角でぶつかる………。
私の脳内は完全に停止した。
一度落ち着いて再起動し、ぶつかった相手のことをよく観察する。
茶色がかった黒で、あまり整えられていない少し枝毛っぽい髪。
170半ば程の身長、少しだけ筋肉質な雰囲気のする腕。
平均的な顔立ち………。
及第点…といった所かしら…。
完璧な観察………だが私は正直、それどころじゃなかった。
アピぇぇえゃやァ”ァ”ァ”!!!恋愛漫画みたいに男子とぶつかっちゃったぁぁぁ!!!これってあれよね?あれよね!?ここから青春が始まるのよね!?中学生時代教室の窓際で悲観系美少女キャラを演じ続けて釣られた男子に告白されて私が断っても諦めずに何度も告白してきていつか私もその熱意に負けて付き合うまでを想定していたのに結局誰も釣れずに友達も一人しかできずに今に至る私が!?
まずい…この超平均的な顔がめちゃくちゃイケメンに見えてきたわ……。
と、取り敢えずどうやら高校生みたいだし、何処の高校に通っているのか聞いてみましょう…。
「アンタどこ高?」
「本当にすみません、急いでたんです!」
セリフ被っちゃった上にヤンキーみたいな聞き方になっちゃった!
「緑奥ですが…。」
「えっ、同じ学校なの!?」
まさかの同じ高校なんて…これはもう運命よね!
「もしかして新入生…?」
「えぇそうよ、アンタは?」
もしこれでこの人も新入生なら運命の人確定よ!私達赤い糸で結ばれた二人なんだわぁ………。
「2年生だよ、君の先輩。」
…どうやら運命の人ではなかったみたいね。
「後輩だと分かった途端に敬語をやめるのね、へぇ…。」
白馬の王子様か何かだと勘違いしちゃったわ、コイツはただのモブね。
私とぶつかれたんだから感謝するといいわ。
「そ、そういえばなんで君は学校と反対方向に向かってるの?」
なんだか苛ついてきたわ、最早殴ってあげようかしら。
「君なんて言うのやめて、殴るわよ?」
口が滑ってしまった…。
「な、名前はなんて言うの?」
初対面で名前を聞いてくるの?コイツは。
「ん」
ふふふ、これは私のお母さんの連絡先よ。そう、つまりフェイクっ!女子と連絡先交換できたヤッター!とでも思ってルンルン気分で早く私の視界から失せなさい!
「早くしなさい。」
「え?あぁはい…。」
この時の私は脳が完全に再起動できていなかったため気が付かなかったが、母のものと思っていたこの連絡先は実は私の連絡先であった。つまり………
………そう、コイツに私の初めては奪われたのだ……辱めを受けた気分だわ…。
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