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冬の乾いた砂ぼこりの舞う裏路地を、カーミラは歩いていた。
普段であれば泥酔した人間や客引きの娼婦でそれなりに賑わっているのだが、3日前から吸血鬼狩りの連中が掃討作戦を開始し、市民への被害が出始めたため、今はしんとしている。
カーミラは周囲を警戒しながら酒場の裏口へ続く階段を降り、小刻みに扉を叩いた。
少し間が空き、ノックが返されるのを聞いた彼女は、扉の下から紙幣を入れた。
それを丹念に数える気配が止まると、代わりに小さく折りたたまれた紙片が差し出された。
人間の血が入ったロッカーの場所と暗証番号だ。
指定されたロッカーで紙袋を受け取ったカーミラは、隠れ家に向かって足早に歩いた。
周囲に人の気配のないことを確認し、慎重に鍵を開けると、カーミラはテーブルとイスとソファだけの部屋に入り、コートを脱いだ。
3日ぶりの血液だ。
吸血鬼は血液が凝固しないよう、定期的に人の血を摂取しなければならない。
イスに腰かけ、ガラス瓶に入った血を流し込むと、カーミラはその味に思わずむせて咳込んだ。
口の中に残った血の味、正確には組成に覚えがあった。
動揺を抑えながら、味蕾が組成を解析し、人物を特定するのを眼を閉じて待つ。
そして記憶とともに浮かび上がった分析結果に、カーミラの身体は震えた。
瓶詰めされていたのは、5年前に捨てた自分の娘、ローラの血だった。
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