桜の木の下には・・・

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春が馬車に乗ってやってまいりましたですよ。  各地の桜の名所では満開に近く、お花見客もたくさん訪れているとのこと。  でも、そんなの関係ねえぇぇーっ!  あんなのは、恋人や友だち、家族連れの行くところでしょうよ。  私のように五十歳にして引きニート、ハゲ、デブ、真性童貞という「一人負の饗宴」と呼ばれる者からすれば、どの面下げて浮かれた連中の人混みに混じれ、ってことですよ。  たしかに「花より団子」と昔からいいまして、桜の名所に出店する屋台には抗いがたい魅力はございますね。  フランクフルト、フリフリポテト、リンゴ飴、焼きそば、たこ焼き、ベビーカステラ……ほとんど衛生観念ゼロのテキ屋が手も洗わずに適当に作る食べ物は、不潔ですけどワイルドな味がして、私大好物でございますですね!  食べたくても食べられない……このような「目の前にぶらさげられたニンジン」のことを考えるのは精神衛生上よくないことだと、どこかの偉い先生も仰っておりました。  屋台の食べ物なんかしょぼい味ですし、値段もぼったくり価格で、ヤ○ザみたいなテキ屋がそのへんで小便でもした手を洗わずにやっつけ仕事で調理しているわけですから、コンビニで買ったファ○チキとかポテトの方が数倍安くて美味しいに決まっておりますですよ、ふん!  だいたい花見とか、桜っていうのが私にとってはいいイメージがまったくないのでございますですね。  春は出会いと別れのシーズン……卒業・進級、入社・異動。  私とぜえぇーんぜん縁のないイベントでございますね!  私は義務教育こそ修了しているものの、高校は中退して卒業できておりませんし、引きニート歴三十有余年、出会いも別れもまったくない子ども部屋おじさんとして君臨しておりますから、そんな甘酸っぱい感傷はまさに「酸っぱいブドウ」、あんなものなければいいと毎年妬みの極みでございますですね。  ……それにしても窓の外に見える桜の花や、テレビで観る桜の狂おしいほどに咲き乱れる姿はなんだか美しいを通り越して、不気味ですらありますね。  爛漫の桜の下で、心浮かれて酒を呑み、忘我の境地に至る人々。  一瞬の美しさを永遠に留めようと、スマホで桜を撮影しまくる人々。  昔の作家が「桜の樹の下には屍体が埋まっている」と書いた理由が、なんとなくわかるような気がいたしますですね。  私は桜の木の下に屍体が埋まっているとは思いませんですけれども、違うものが埋まっているのではないかと確信しておりますですよ。  それは……桜に取り残された私のような人間たちの怨念でございますですよ!  引きニートで世間の鼻つまみ者であるがゆえ、桜を大勢の人たちと楽しめない私のような人間や、病で外に出ることがかなわぬ者、花粉症で花見ができない者、経済的困窮のため屋台で食べ物が買えない者……そう、世の中春になれば浮かれて花見を楽しみたい者以外の人間は、実は多いんです。  冷静に観れば、桃色の花びらに埋め尽くされた桜の下で浮かれ狂う人間たちの方が滑稽だとは思いませんでしょうか?  彼らは私たちマイノリティの怨念をたっぷり吸い込んだ桜の木の下で花見や食事をし、絶えず発散する怨念の気を吸い込んでいるのでございますよ。  花見の季節の後、どうなるか皆さまご存じですよね?  五月病に代表される鬱病などの精神疾患の多発、春の狂乱を済ませ気がつくと新しい環境になじめない人々の自殺。痴漢や万引等精神疾患に基づくといわれる犯罪の増加……。  みいぃーんな桜の下に埋まった私たちマイノリティの怨念に精神を汚染され、気がつけば心を病んでいるのでございますよ!  ドオォオーン‼  ……なんて「笑ウせぇ○すまん」みたいな妄想はやめましょう。  私は今窓の外を眺めながら、業務用・二十個入りの桜餅を食しております。  桜餅には、罪はありませんからね。このしょっぱい桜の葉と甘いお餅のハーモニーは絶妙でございます。  どんな季節でも難癖つけて外に出ないのは、私のライフスタイルであって、怨念など念じ始めましたら年中めんどくさくてかないませんですよ。  結局どの季節でも楽しめる人は楽しめますし、楽しめない人は楽しめない。  これ、世の理でございますよ。  お花見がお好きな人は、せいぜい桜が散り終えるまで騒いで、ゴールデンウィークを満喫し、夏休みで海に泳ぎに行き……走り続けるとよろしいのです。  私は桜餅の次は柏餅、さらにはアイスクリームを食べ続けますですよ。  幸せの尺度は人それぞれ……みんな違った楽しみ方をして四季を楽しんだらいいのです。  ただ……桜の木の下だけは、お気をつけくださいませね。オーッホッホッホッホッ。                   終
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