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場面は変わって、喫茶店の片隅。二人掛けのテーブルに相対して座る由里子と城田。由里子の前には紅茶のカップがあるものの、手も付けていない様子。城田の方はコーヒーカップの脇にハガキらしきものを置いて、その文面を睨んでいる。
「この浅黄から来た最後のハガキには、このまま北上して青森まで行き、そのまま北海道へまで渡ってみるつもりだと、確かに書いてある。けれど、いろいろ手を尽くして調べて貰ったのですが、札幌や室蘭の、どの知人のところにも浅黄は顔を出してない。青函連絡船にも乗っていないようだし、そもそも青森に立ち寄った形跡もないのです」
「そうなんですか……」
「このハガキは本当に浅黄のものなんですか?」
「ええ。間違いなく真一兄さんの筆跡です」
「うーむ」腕組みをして考え込んだ城田は思いきったように顔を上げて、
「僕は宇墨島へ行ってみるつもりです」
「ええ? 宇墨島?」
「そうです。消印から見て、このハガキは宇墨島の近くから出されたものです。浅黄が宇墨島に行ったことは間違いありません。問題はそこから先です。宇墨島で、あいつは消えてしまったかのようだ。宇墨島で何かがあったと僕は思います。その何かをこの目で確かめようと思うんです。幸い、明日から大学の方も休みになりますから」
「そうですか……」由里子嬢もまた決心したように、「城田さん。わたしもご一緒します」
「ええ? 由里子さんも」
「兄の行方を突き止めることは、本当なら、わたしの仕事なんです」
「うーん。しかし、それは」
「ご迷惑ですか?」
「そんなことは――」城田青年、一つうなずいて、「分りました。一緒に行きましょう」
「よかった」
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