総天然色!「きのこ人間の恐怖」鑑賞記

4/40
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
 場面は変わって、喫茶店の片隅。二人掛けのテーブルに相対して座る由里子と城田。由里子の前には紅茶のカップがあるものの、手も付けていない様子。城田の方はコーヒーカップの脇にハガキらしきものを置いて、その文面を睨んでいる。 「この浅黄から来た最後のハガキには、このまま北上して青森まで行き、そのまま北海道へまで渡ってみるつもりだと、確かに書いてある。けれど、いろいろ手を尽くして調べて貰ったのですが、札幌や室蘭の、どの知人のところにも浅黄は顔を出してない。青函連絡船にも乗っていないようだし、そもそも青森に立ち寄った形跡もないのです」 「そうなんですか……」 「このハガキは本当に浅黄のものなんですか?」 「ええ。間違いなく真一(しんいち)兄さんの筆跡()です」 「うーむ」腕組みをして考え込んだ城田は思いきったように顔を上げて、 「僕は宇墨島(うずみじま)へ行ってみるつもりです」 「ええ? 宇墨島?」 「そうです。消印から見て、このハガキは宇墨島の近くから出されたものです。浅黄が宇墨島に行ったことは間違いありません。問題はそこから先です。宇墨島で、あいつは消えてしまったかのようだ。宇墨島で何かがあったと僕は思います。その何かをこの目で確かめようと思うんです。幸い、明日から大学の方も休みになりますから」 「そうですか……」由里子嬢もまた決心したように、「城田さん。わたしもご一緒します」 「ええ? 由里子さんも」 「兄の行方を突き止めることは、本当なら、わたしの仕事なんです」 「うーん。しかし、それは」 「ご迷惑ですか?」 「そんなことは――」城田青年、一つうなずいて、「分りました。一緒に行きましょう」 「よかった」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!