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場面は一転。カメラは晴れ渡る青空からパンして、のどかなキャンパスの一画を映し出す。一様に、バカっぽく見えるくらいの、にこやかな表情を浮かべたエキストラ諸氏をかき分けて、カメラはキャンパスの片隅、ポツンと植えられたクスノキの木陰で、人待ち顔で佇む、若い女性を映し出す。
めんどくさいので先に告げておくと、彼女こそがこの映画のヒロイン、浅黄由里子嬢その人である。御年十九歳だが、もう少し若く見えるから美少女でよかろう。肩までの黒髪、白のブラウスに長めのスカート、パステルピンクのカーディガンと、記号化された「良家のお嬢さん」を演じておられる。
清楚で若々しく、健康そうで、問題なく美しい。観客が頭の中で補正をしないと、その役には見えないと言うようなことはないが、役のイメージからすると、少し意志的にすぎる容貌かも知れない。
さて、その由里子さん。ふと振り向くと、「あら」と声を発てる。
彼女の視線の先から駆けてくるのは、画に描いたような「好青年」。今度は、本編の主人公、城田青年の登場である。ちなみにファーストネームの方は劇中はもちろん、なぜだか資料をいくらひっくりかえしても出てこないので、なんとでも、お好みで想像していただきたい。
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