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仕組まれた罠
「う〜ん、こっちの着物の方がいいかしら」
雲一つない麗らかなある春の日のこと、着物をそこら中に脱ぎ散らかした私は鏡と睨めっこをしていた。身に纏っているのは、今の季節にぴったりの桜模様の着物。近々、お見合いの予定があるので、そのとき着るために用意したものだった。
「でも、春だから桜模様っていうのも芸がないわよね。この桃色も、私にはきつすぎるような気もするし……」
考えれば考えるほど、沼にはまっていくようでなかなか決まらない。どうしたものか、と腕組みをして唸っていると「お嬢様」と後ろから呆れたような声が聞こえてきた。振り返れば、切れ長の瞳に、すらりと背が高く、肩より少し長い髪を半上げした美麗な男の姿。
「なによ、仙。その呆れた眼差しは」
「また、こんなに散らかして。後片付けが大変ですよ」
「だって、今度顔合わせのときに着ていく着物がなかなか決まらなくて」
「『だって』じゃありません」
仙はそう言いながら、障子を大きく開けて中へと入ってきて足元にある着物を手に取って畳み始めてくれる。仙がお母様みたいな小言を言うのは、いつのものことだけれど、呆れながらもこうやって手伝ってくれるのもまた、いつものことだった。年は私と10も変わらず、私にとっては兄のような存在でもある。
「お嬢様はお肌が白いので、濃いお色よりも淡いお色の方が似合うと思います」
「じゃあ、この白地の着物とか、薄い青の着物とか?」
近くにあった淡い色の着物を二着手にとって、仙に見せる。すると、顎に手を当ててしばらく悩んだ仙は「こっち、ですかね」と白地に花模様の着物を指差した。
「百花絢爛の華やかな模様なので、おめでたい席にはちょうどいいんじゃないですか」
仙にそう言われて鏡の前に立った私は、白の着物を体に当てて見てみる。なるほど、仙の言う通り、この色の着物だと顔まわりも一段と明るく見えて印象もいい。黒髪にも映えそうだ。
「じゃあ、これにするわ。ついでだから、帯と簪も仙が選んでくれる?髪は長いからひとまとめにするつもりだから」
私の言葉に仙はため息をついた。
「……全部私の見立てで本当にいいのですか」
胡乱な目でこちらを見つめる仙に、私はにっこりと笑って「ええ」と返した。
「だって私、仙のこと、この世で一番信頼してるもの」
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