500人が本棚に入れています
本棚に追加
椿と知り合ったのは一年とほんの少し前。引越しの挨拶にやってきたときに、高羽家の御当主に連れられてきた。当時の印象は、引っ込み思案でおとなしい女の子。俯きがちで、人前に出るのも苦手だと話していた。
そんな椿を心配してか、高羽のおじさまは「仲良くしてやってくれ」と彼女のことをよろしく頼むと私に頼んでいたくらい。幼い頃から仙と一緒に育ってきたとはいえ、妹のような存在ができることは、私にとっても嬉しいことだった。
それからというもの、よくうちの屋敷に招いてはお茶をしたり、私が着れなくなった着物をプレゼントしたり、一緒に街へおでかけしたりと、まるで姉妹のように共に過ごすようになったのだ。
『あやめさんのこと、”お姉様”って呼んでもいいですか?まるで、本当のお姉さんみたいだから……』
もじもじと恥ずかしそうに彼女にそう言われたときのことは、よく覚えている。お父様が亡くなって塞ぎ込んでいたときも、椿はよくこの屋敷を訪れ、私の身の回りの世話をしてくれたこともあった。今では、お茶仲間としてすっかり定期的に会うような仲である。
「今日は、どうしたの?連絡もなく椿がうちに来るなんて珍しいわね」
仙がお茶の用意をしてくれている間、私たちは縁側に座っておしゃべりを楽しむことにした。
「その、急ぎお知らせしたいことがありまして。仙様には内密にしたいお話です」
「仙に内密の話……?」
「ええ。あやめお姉様が九条家に嫁入りにすることになったら、仙様も一緒に連れて行かれるのでしょう?」
「そのつもりだけど……」
それと「内密にしたい話」と、どう関係があるのだろうかと首を傾げていると、椿は「だったら」と、にやりと悪戯な笑みを浮かべて私を見た。
「仙様に内緒で、何か贈り物をご用意してはいかがですか。養子とはいえ、ご家族のように育ってきたお方なのでしょう?結婚してからも側にいることにはお変わりないでしょうけれど、おめでたい節目のときですし、これまでの感謝の気持ちを込めてお礼の品をお渡しして差し上げるのも良いのではないかと」
私にぴたりと寄り添って小声で、そう言う椿の言葉に「なるほど」と返す。確かに、仙にはこれまで随分とお世話になってきたことだし、椿の提案は名案かも。
最初のコメントを投稿しよう!