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「九条家からのご厚意で着物はいろいろと新調するつもりだったけど、それとは別に何か贈り物をするのもいいかもしれないわね」
私の個人的なお金で仙に贈り物するくらいの蓄えはある。何より、椿の言うようにこれまでの感謝を込めて何かプレゼントしてあげたいという気持ちが強かった。私の言葉に、椿は嬉しそうに「でしょう?」と両手を合わせて笑う。
「今度うちのお屋敷に行商をお招きする機会があるので、よかったらあやめお姉様も遊びにいらっしゃいませんか。異国の地から仕入れた、珍しい商品もたくさん持ってきてくださるってお話ですよ」
「私がお邪魔してもいいのかしら」
「もちろん!父もあやめお姉様とお話したいと言っていたので、ぜひ」
そこまで言われてしまうと断る理由もなくなる。私は「じゃあ、お願いします」と今度、椿の家に遊びに行くことにした。
「くれぐれも仙様には気取られないようにお気をつけくださいね。内緒にしておいて、驚かせるのが目的なんですから」
「分かったわ。仙には、街へ買い物のおつかいでも頼んでおくようにしましょうか」
秘密の計画というのは、なんだかワクワクする。贈り物か……。仙は、どんなものを贈れば喜んでくれるだろう、と考える。普段はあまり着飾る趣味がないタイプだけれど、着物やスーツだってもっと派手なものを着ても似合うと思うのよね……。
「それにしても、あやめお姉様は幸せ者ですね。九条家の次期当主の蒼志様とのご婚約なんて、街中の女の憧れですよ」
「九条家は格式を重んじる家柄だから。落ちぶれかけているとはいえ、きっと『水無月家の娘』という地位だけで選ばれたにすぎないけれど」
はあ、とため息をつく私を見て「いいじゃないですか」と、クスクスと笑う椿。
「……どんな形であれ、いつもあやめお姉様は幸せを掴むことができるのですから」
「ん?何か言った?」
続いた言葉が聞き取れなくて、そう返したけれど、椿は「いいえ」とにこりと微笑むだけだった。そんな折、「お嬢様」と後ろから呼びかけられる。振り向けば、お茶と茶菓子を乗せたお盆を手にする仙が客間へ入ってくるところだった。
「お茶が入りましたよ」
「ありがとう、仙」
机にお茶の用意をしてくれる仙を横目に、私と椿は顔を見合わせて、ふふと笑みをこぼした。「あの話は内密に」と、仙にはバレないように目と目で合図をしながら──。
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