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◇◇◇
「じゃあ、仙。おつかいよろしくお願いね」
「……お嬢様も人使いが荒いですね。あちこちの店で、こんなに買い出しを頼むなんて」
嫌味ったらしく、そういう仙に私は顔の前で両手を合わせて頭を下げた。
「ごめんなさい!今日は、お琴の先生が急遽来ることになったから私も家を空けるわけにはいかないし……」
「顔合わせまで、いろいろと準備が大変だから仙が手伝ってくれると、とっても助かるわ」と、仙の顔を下から覗き込めば、その切れ長の瞳にじっと見つめられる。そして、見つめ合うこと数秒間。
「……分かりましたよ。きちんと買い物は済ませておきますから、お嬢様はしっかりとお琴の練習に励んでください」
仙の言葉に「さすが仙、頼るになるわ!」と、私が腕に抱きつくと「調子がいいんですから」と、呆れたように笑われた。これで仙に内緒で高羽邸へ行く作戦は成功だわ。
「今日は仙が好きなオムライスを作って待ってるから」
「それは楽しみですね」
お、と目の色を変える仙にふふと笑みが溢れる。
「では、行ってきます」
「気をつけていってらっしゃい」
角を曲がったところまで見送ろうと、その背中を見守っていたけれど、途中でくるりと振り向いた仙と目が合う。それから「私のことはいいですから、戸締りをして部屋で大人しくしていてください」だなんて、子どもに言うみたいなことを言いつけられた。
「もう大丈夫よ。心配性なんだから」
相変わらず過保護すぎる仙に苦笑しつつも、私はひらひらと手を振って彼のことを見送ったのだった。
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