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「さて、じゃあ行きますか」
仙が見えなくなったのを確認し、私は早速屋敷の戸締りをして高羽邸へと向かうことにした。
街で人気の『よし乃』の大福を手土産に、どこかうきうきとした気持ちで足取りも軽い。立派な門を前に呼鈴を押し名前を伝えれば、しばらくして椿が「いらっしゃい」と出迎えてくれた。
撫子色に花模様の華やかな着物。髪には以前、私が彼女の誕生日に贈った花簪をつけている。
「今日は誘ってくれてありがとう」
「もう行商のお方もいらっしゃってますよ。仙様に似合いそうな小物もたくさんありましたから、早くあやめお姉様も一緒に選びましょう」
「ええ」
椿は私の手を取り、早く早くと急かしてくる。彼女も随分とこの日を楽しみにしていたらしい。私は小さく笑みを溢しながら、そんな椿のあとをついていった。
高羽邸は、この辺りでは珍しい西洋風のお屋敷。下見板張りの外壁に、鎧戸の窓、2階にはベランダがあってとてもオシャレなお家だ。室内の床には赤絨毯が敷かれていて、壁には油絵で描かれた風景画が並ぶなど、和風の我が家とは随分と建築様式が異なる。
とはいえ、一部の部屋が和室の造りになっているのは、「やはり畳が落ち着くから」という高羽のおじさまの希望があったからなのだとか。
「さあ、こちらへどうぞ」
案内されたのは、いつもの客間。中に入ると高羽のおじさまとおばさま、そして側には行商と思わしき異国の男性がそこにいた。
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