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1.「みかもん」との出会い
久々の連休の朝。
起き抜けにカーテンを開けた途端、初夏の眩しい光をいっぱいに浴びた健太は、一気にテンションが上がった。
「出かけよう!」
こんな日に、外に出ないなんてもったいない。
パパッと身支度を済ませ、歩いて10分足らずの国府津という駅から、下り電車に乗る。
ゴールデンウィークが終わったばかりの平日の車内は空いていた。
*
健太の生い立ちは過酷だ。
生まれは鎌倉。
小町通りの中ほどを左手に折れ、少し奥に入った閑静な住宅街。その一角の小さな一軒家に、母と妹の三人で暮らしていた。
父親は、健太がまだ2歳の時に亡くなったのだと、母親から聞かされていた。
それから母親は、健太と、生まれて間もない妹の二人の子供を育てながら、買ったばかりの家のローンを返すため、身を粉にして働いた。
「うちは貧乏なんだから!」
と口癖のように言っていた母は、無理が祟って精神を病み、施設に入ってしまった。
小学校入学と同時に、健太は鎌倉市内の父方の親戚、妹は静岡の母方の親戚に引き取られたが、両家の仲が悪かったため、兄妹は音信不通となる。
健太は高校卒業後、鎌倉を出て、小田原市内の郵便局員として働きながら、今の古いアパートで一人暮らしを続け、気がつけば、かれこれ12年が経っていた。
*
国府津駅から3つ目の、早川駅を出て、トンネルをいくつか抜けると、住宅街だった景色は一変する。
迫り来る、壮大な太平洋の海。
波が打ち寄せる、岩場の海岸。
健太にとっては見慣れたはずなのに、今日は新鮮に映る。
「降りよう!」
その空気の中に身を置きたくなって、次の根府川駅で席を立った。
無人駅のホームに、降り立ったのは他に数人だけ。
すぐに健太ひとりだけになる。
高台のホームから見下ろす大海原、180度の大パノラマを一人占めの気分で、思い切り深呼吸。
「あぁー、生き返るー」
思わず声が出る。
体中の淀んだものが抜け、代わりに新鮮な空気が隅々へ染み渡っていく。
健太はそれから、軽やかに階段を上り、山側にある改札を出る。
昔のままの木造の駅は、ローカル色満載。
駅前には、バスやタクシーの乗降場と、小さな郵便局、それにJAがあるぐらいで、これといった店は見当たらない。
と、ロータリーに面した県道沿いに、お店の立て看板らしきものが目に留まった。
歩み寄ってみると、小さな木の板に、
『喫茶みかもん』
と手書きで記されている。
(みかん、じゃないんだ)
何となく微笑ましい感じの看板に興味をそそられた健太は、ちょうど喉が渇いていたこともあり、行ってみることにした。
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