1.「みかもん」との出会い

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 案内に添って石段を登っていくと、ほどなく右手に『喫茶みかもん』は現れた。  古い民家を改築した、な感じの店構えだ。  営業中の札が出ているのを確認し、引き戸を開けて中へ入ると、 「いらっしゃいませ」  奥のキッチンから、やや控えめな女性の声が迎えてくれた。  見渡すと、5席あるカウンターと、4人用のテーブル席が3つだけ。こぢんまりとしている。  国内の土産品や調度品などが飾られた店内は、外観と同じく、和が基調の設えになっている。  そして、喫茶店にしては珍しく、BGMに演歌が流れている。 「お好きな席にどうぞ」  キッチンの女性が、ニッコリ笑って客席の方を手で指し示す。 「ここでいいですか?」  健太がカウンター席を指差すと、 「どうぞ」  女性は、微笑みながらカウンター越しに水とおしぼりを出してくれた。  三十歳前後だろうか。  後ろで束ねられた、長くて素直な黒髪。パッチリした、大きな瞳。 (きれいな人……)  おしぼりを手に取りながら、健太は思わず見とれてしまった。 「ご注文が決まりましたらどうぞ」  微笑のまま、彼女が言った。  半袖の白いブラウスの上に、ベージュの薄いカーディガン。その上に、『みかもん』と刺繍された薄緑色のエプロンをつけている。  そのエプロンに、小さな名札が付いている。よく見ると、 『店長 榊ゆう子』  とあった。 「お若いのに、すごいですね」 「……?」 何が?という表情で、健太を見るゆう子。 「このお店の店長さんなんでしょう?」 「ええ。一応ね」  と答えてから、 「ご注文……決まりました?」 「あっ、いけない。そっちが先でしたね」  慌てて目の前のメニューを手に取る。  木の板に、メニューが印刷された紙が貼ってある。  種々のコーヒー、紅茶に、ケーキが二種類ほど。  他に、カレーライス、スパゲッティといった軽食類。 (よくある喫茶店メニュー……)  と思いきや、右下の方に、❝当店オススメ❞と書かれた品があるのが目に入った。 「この、みかもんティーと言うのは?」 「はい。の紅茶です。略して、ティー」  彼女はそう言って、小さな声で笑った。弾けるような笑顔が眩しい。 「ああ、なるほど」 「お勧めですよ。今日みたいに、ちょっと暑いかなっていう日には」 「じゃ、みかもんティーをひとつ」 「ありがとうございます! ちなみにアイスになっちゃいますけど、大丈夫ですか?」 「はい。ちょうど冷たいものが飲みたかったので」  ゆう子は笑顔のまま頷いて、さっそく淹れ始めた。
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