2.ミニライブ

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 彼女はそこで一瞬俯いてから、 「……甘え上手な男って、いますよね?」  そう言って、少し疲れた笑みを浮かべながら観客を見回す。  何人かの中年の女性が、苦笑を浮かべながら、そうそうと言いたげに頷いていた。 ゆう子は続けて、 「私は幼くして母親と離れ離れになってしまったので、母との記憶も無いんですけど……母性って、きっとこういう感じなんだろうって思いながら、この曲を歌ってました」  そんなことを言った。 その後で、気分も新たにというように、 「さて、次はいよいよ新曲です」  今回のミニライブのメインだ。  簡単な曲の紹介に続いて、新曲を歌い始めた。 それは、自分を捨てた男に思いを馳せながら、ただひとり酒を呑む、女の哀愁。  ♪ 本気で惚れた人だった   あなたも本気だと信じていたのに    あなたは私を捨て    若くて綺麗な(ひと)の元へ行ってしまった    身も心も あなたに染め尽くされたのに   命を懸けて 身を捧げたのに   それなのに なぜ……  ♪ 今でも暖簾の向こうから   あなたがひょっこり顔を出す気がするの   北風が暖簾をまくこんな夜は   来ないとわかってるのに   嫌いと好き…   逢うと苦しい でも逢いたい…   募る未練の涙が落ちて  盃の中の私を揺らす  二人でよく来た居酒屋で…  そんな詞が綴られていた。 一人残された女の哀しい恋心を、表情と、仕草と、切なく艶やかな声で、彼女は見事に演じて見せる。 (こんな一途な女を……俺だったら、絶対に捨てない!) 健太の無防備な心が強く揺さぶられ、思わず涙ぐみそうになる。  ゆう子は最後まで情感たっぷりに歌い上げ、最後は声を張りながら両手を大きく広げるポーズを決めて終えた。 (すごい……)  圧巻だった。  気づかないうちに、健太の頬を涙が伝っていた。  観客は最後まで少なかったが、人数以上の歓声と拍手に会場は包まれていた。  目頭をハンカチで押さえている観客さえいた。  健太も最後は溢れる涙も気にせず、拍手を送り続けていた。  ライブの後、健太はCDを買い、そのままゆう子と握手すべく、列に並んだ。
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