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自分の順番になり、彼女の前に座る。
視線が交差すると同時に、ゆう子が手を振って笑顔を弾けさせる。
「こんにちは! 来てくれたんですね」
「はい。素晴らしかったです」
「ありがとうございます。CDまで買ってくださって。嬉しいです」
ゆう子が、その大きな目を細めて、右手を出す。
握手会であることを忘れかけていた健太も、慌てて右手でゆう子と握手を交わした。
もっと話しかったが、後に待っている人がいるので、名刺の裏にLINEのIDを走り書きし、ゆう子に手渡した。
「じゃ」
と席を立つ健太に、ゆう子はにこりと笑って頷いた。
健太はいま、自分の心がゆう子に強く惹かれているのをはっきりと意識していた。
今日、ゆう子に歌われていた女性たちの姿が、そのままゆう子に重なるような気がして……。
逢いたくてたまらなくなった。
自宅に帰った健太は、さっそくCDを聴きながら、ゆう子からのLINEを待った。
それは、夜になってやって来た。
『こんばんは 昼間は来てくれてありがとうございました』
『いえいえ すごかったです 感動しました』
『本当ですか? 嬉しいです!』
『もっとお話ししたいです』
『私も』
二人は、もうその場で会う約束を交わしていた。
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