透明人間

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 声のトーンとか、表情とか、空気感で相手の感情がわかるだなんて、わたしにとっては超能力でしかない。親友だと思っていたミサキが、本当は親友じゃなかったとか、そんなことどうやったらわかるというのだ。  自分が普通ではないと気付いた時、口のなかに甘い綿菓子の味が広がった。  そう。  わたしは、ずっとずっと透明人間だったのだ。  いなくても良い存在。  普通じゃないってことを誰も教えてくれない世界で、自分は普通だと思っていたおかしな子。 「ビール、注ぎ直しましょうか?」  カウンターの向こうから店主が、すっかり泡の消えたわたしのジョッキを見ながら言う。 「あ、いいです。ビールは泡が消えてから飲むことにしてるので」  わたしの返事に店主が変な顔をする。  きっともう、店主の視界からわたしは消えたであろう。変なこだわりは直せないのだから仕方がない。  泡の消えたビールと共に、わたしも消えるのだ。  カウンター席の端っこで、わたしは苦い苦いビールを飲みながらも、なぜかそれを甘く感じていた。
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