嘘の人生謳歌

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 みんなが。この世界の人たちみんな、あの時の彼女みたいな冷めた目をしていて。僕を見ているようで、まったく眼中にないのがわかるから。  結局そのまま大人になって、結婚もできずに一人でいる。こんなよくわからない男と結婚したら毎日面倒くさくなるからと、女の子には見向きもされなかった。  争いのない世界を望んでいる人は地球には多かったはずだ。この世界には戦争どころか競争も存在しない。  本当の意味での「平等」だ。平らでみんな等しい。それなのになんでなんだろうな。どうしてこんなに……。  僕だけ、歪でデコボコなんだ。  この世界の人は死ぬ時は死ぬという考え方だ。生きたいから生きているわけでもない。突然何かに巻き込まれて命を落としても、それが不幸だと思わない。生きてるんだから死ぬのなんて当たり前でしょ、そう言われたこともあった。  喜怒哀楽がなく、まるで人形のように無表情な世界。  僕もだんだんしゃべらなくなって他の人との交流は一切しなくなった。相手の目が見れない。怖くて。  もちろん村で生きている以上最低限支え合って生きてはいるけれど。会話も最小限、でもそれでも誰も何も困らずに生きている。困っているのも苦しんでいるのも僕だけだ。  自分の生きていた世界じゃない所で、どうして幸せに生きられるって思ってたんだろうな。嘘をついているから、と言い訳すれば楽になるなんて。  自分が幸せになる前提は、自分が生まれ育った常識が存在する世界だけだ。異世界転生って、日本人の常識が蔓延した世界じゃないと成立しないんだ。  なんて都合がいい世界なんだ羨ましい。そんなの日本以外に存在するか? しないだろふざけるな。  いつ、嘘だってばらしていい? いつ終われる?  僕は自分好みの常識を周りの人に押し付けていただけ。本人たちが望んでいないのなら、それは本当に大きなお世話なんだと気づいたのは大人になってから。  僕からすればこの世界は「非常識」だ。そして周囲から見れば僕たった一人がこの世界で非常識なのだ。  近所の子供が忙しそうに働いていたから手伝おうかと声をかけた。小さな女の子だ、荷物を重そうに運んでいたから。 「いらない」 「あ、そう……」  やっぱり断られたなぁと思っているとその子供はじっと僕を見上げる。 「手伝いが要らないんじゃなくて。お前が要らない。仕事の邪魔しないでよ」  それだけ言うと仕事に戻っていった。  何かがガラガラと崩れていくような気がした。なんだろう、ギリギリ踏みとどまっていた僕の論理的思考なのか。それとも心を支えていた何かだろうか。
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