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その後、無言が続いた。な、何か言わなきゃいけないかな。いや、いらないかな。
「はい、昼になった。嘘」
「え」
チュアトは無表情だ。あ、今昼になったのか。
「アンタがずっと前言ってた、嘘つく日ってやつなんだろ。しょうがないからやってやったよ。ヘトヘトだから座りたかったしな」
「あ、え、そう……」
なんだ。嘘なのか、そっか。そうだよな。
「早く」
「え、なに?」
「アンタも嘘って、言いなよ。さっきの」
――生きてても、しょうがない
「あ」
「嘘なんだろ?」
無表情の中にある、ほんの少しの悲しさ。
「生きてりゃいつか死ぬ。ほっといたって死ぬんだから」
「まあ、そうなんだけど」
「ほっといても死ぬなら、死に急ぐ必要ないだろ。父ちゃん母ちゃんは死んだ。病気だったから仕方ない。でも、それで良かったって思ったことは一度もない」
まさか。そんなはずない、また自分の都合のいいように解釈しようとしてるだけなんじゃないか。この子が僕を心配してくれてるなんて。
「チュアト、嘘は昼前までだよ。ぼ、僕を心配するなんて嘘、騙されないぞ」
声が震える。どうしよう、嬉しくて泣きそうだ。泣いたらまた変な奴って思われるんだろうけど。いやもう今更じゃないか。
「じゃあ、夜までにすればいいじゃん。昼までっていう決まり意味わかんないし。なんでそんな中途半端なの。一日でいいだろ面倒くさいな」
「そっか。そうだね、一日中にしてもいいかな」
そっか。半端だったからみんな嫌だったんだな。わかりにくいこと、まわりくどいことは不要だから。
「あ、でもそう決める前に。まだ前のルールのうちに」
お互い顔を見合わせた。
「辛い、しんどい、生きづらい」
「疲れるんだよ毎日毎日。俺だってまだ大人じゃないのに、オニイチャンだから働かなきゃいけないんだ。一番に産まれただけで。俺が自分でそうなりたいって思った事ないのに」
「友達欲しい」
「ヤカーとアナフも手伝え馬鹿。無理だけど。腹減ってんのは俺もだよ。俺の芋食うな。無理だけど。本読んでっていうなら文字覚えろ。まだ無理だけど」
「話し相手欲しい」
「俺も」
「え、そうなの?」
「欲しいよ、弟たち小さすぎて会話にならない。たまには話したい。うるさい奴は嫌いだけど」
「……」
「餌欲しがる犬みたいな顔するな」
「ご、ごめん」
「今ならなんでも言えるのに、言わないの」
話し相手。寄り添える人が欲しい。でも今言ったら……。
「嘘にしたくないから」
「じゃあ、締め切れば」
そっか。
「はい、嘘はここまで」
「で?」
で? って。この世界の子供って、ものすごく大人びてるんだけど。チュアトは特別大人びてるな。
見た目は十歳くらい、幼稚園生くらいの幼い弟と妹の面倒見てるから。この子が親代わりにならなきゃいけなかったからか。大人にならなきゃ生きていけなかった。
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