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「天帝様、お久しぶりです」
春も初めの蒼い空の下、咲き始めた花の匂いを含みつつ未だ冷えた風が音もなく吹き付ける中、断崖に独り立つ、長い黒髪を垂らし、白衣に緋袴を着けた、まだ若い、といっても二十四、五にはなる女はどこか諦めた風に微笑んだ。
――何故、剣を捨てた。
舟じみた細長い雲に乗り、虹色の光に包まれて立つ、やはり虹色に照り返す長い髪を垂らした、背高く端整だが女とも男ともつかない姿をした天帝の声が響く。
「もう私には必要ないものですから」
女は崖の遥か下に流れる、一筋の光る糸じみた河に目を落とした。
――まだ、道は半ばだ。
――ここまでそなたは懸命に戦って旅路を進んできたではないか。
天から冷厳な声が降ってくる。
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