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1、囮になった男
「お前だ」
長い指先が自分に向けられたのが分かった時、リカルドは、あぁやっぱりと思った。
自分は身分が低い上に、ろくに剣を使えない、まだ見習いの騎士だ。
普段から邪魔者扱いされていたので、こういう時、真っ先に捨てられると分かっていた。
いつか捨て駒になると、分かってはいたが……
立派な騎士になるんだと言われたことを思い出したら、逃げ出すことなどできなかった。
「上級騎士の鎧を着けさせろ。手練れがいると思われたら、それなりに時間が稼げるだろう」
ただの補給部隊の一人として、戦いに参加したリカルドは、憧れていた上級騎士の鎧を身に着けることになった。
しかしそれは、死装束という意味で、求めていたものとは大きく違った。
「お前も国の役に立つ時が来た。本望だろう」
膝をついて地面を見ていたリカルドは、はいと言って頷いた。
そうするしかない。
それが自分に与えられた最後の役目だった。
「帝国の部隊はすぐそこまで来ている。いいか、一分一秒でも長く、奴らをここに留めるんだ。首の皮一枚になっても、喉元へ喰らいつけ! 役立たずのまま死にたくはないだろう。分かったか!」
リカルドは胸に手を当てて、騎士団の服従のポーズをした。
それを見た第二騎士団団長のミケーレは、満足そうに笑って、では行くぞといって踵を返した。
サイズの合わない甲冑が、今にも脱げてしまいそうなのを、リカルドは必死に押さえながら、部隊が消えていくのを唇を震わせて見送った。
リカルドは大陸で二番目に大きいとされる、フランティア王国に生まれて、今年二十六歳になった。
父親は元騎士で、足を悪くして引退し、母親とともに町で酒場を営んでいた。
一人息子だったリカルドは、父親の期待を一身に受けて成長した。
昼間、店が開いていない時は、裏手にある空き地で、父親から剣を習った。
将来は騎士になりたいと言うと、父は喜んでくれた。
兵士募集の張り紙を見て、町の自警団に入ったのが十二の時。
そこで日々訓練に明け暮れ、努力が認められて、王都での騎士見習い試験に推薦してもらえることになった。
年に一度の試験に二回落ちて、やっと十六の時に騎士見習いとして試験に受かり、晴れて入団することが叶った。
平民で騎士見習いに受かるのは、ほんの一握りだと聞いていた。
自分には才能と実力がある。
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