第1話妻が出て行った

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第1話妻が出て行った

 結婚して早数年。  愛する妻が俺を捨てて実家に戻ってしまった。  何が起こったのかサッパリ解らない。  最近、仕事が忙しくて妻サービスを怠っていたのが原因だろうか?  繫忙期で夜遅くまで残業が続いたせいか?  帰る時間の手間を省くために会社の近くのホテルに泊まっていたから、それが不満だったのか?  でも、それは妻も納得していたことだ。「仕事なんだから仕方ない」と笑っていたのを覚えている。  だから俺に不満などはないはずだ。  とにかく俺は妻と連絡を取りたかった。  でも妻は電話に出てくれないし、メッセージを送っても返信してくれない。  妻の実家は日本だ。  俺とは国際結婚でイギリスに住んでいる。なので、直ぐに妻の実家に行ける距離ではない。繁忙期を過ぎたとはいえ依然と忙しい状況が続いているため長期休暇は申請できない。俺をリーダーとして任されているプロジェクトもある。  それに恐らく兄貴の許可を得られないのは必定だ。父同様に仕事の鬼だからな。  妻が出て行く前日の夜。  久しぶりの家。仕事に疲れて帰ってきた俺を妻は玄関で待っていてくれていた。その姿を一目見て喜び、疲労も一瞬で消し飛んだほどだった。  それが、妻の一言で疲れはピークに達した。  『実家に帰るね』  まるで明日の天気を話すかのように言われたセリフ。その言葉を耳にした瞬間目の前が真っ暗になった気分だった。それから後のことはよく覚えていない……気がつけば朝になっていたんだ。ただ一つだけ確かなことがある。それは妻がいなくなってしまったという現実。そして、離婚の危機だという事だ。  目が覚めた俺が二人の住まいであるマンションを見渡すと、どうやら妻は出て行った後だった。慌てて部屋を粗探しすると妻の服などが数点なくなっている事に気づいた。  やはり、妻は実家に戻ったのだと確信した俺は急いで妻の実家に連絡をした。しかし繋がらなかった……何度もかけ直したが一向に出てくれなかった。    俺の頭に「離縁」の二文字が何度も浮かぶ。  いや、まさか。  いやいや、そんなはずは無い。  否定しても何度も「もしかすると」という思いが浮かび上がってくる。    信じたくない!!  消しても消しても浮上してくる「離婚」の文字。  一日考えてもまったく解決策が見出せなかった。グルグル回る思考。それでも朝が来る。俺は仕方なく仕事に向かう。  妻の最後の笑顔が頭から離れない。  俺との別れがそんなに嬉しいのか!?  鬱々した想いのまま仕事に取り掛かったのが悪かったのか、いつもなら起こる事のないミスを犯しトラブルが連発する始末。  マンションに帰る頃にはとっくに深夜になっていた。  灯のない暗い部屋。  人の気配がない部屋。  静かすぎる部屋。  それに耐えられない。  この世の終わりだ。    
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