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そこは、慣れ親しんだワンルームアパートの自室だった。
春が来たばかりで未だ仕舞わないでいるこたつの上にうつ伏せて寝落ちしていたようだ。
こわばった上半身に血を通わせるように起こして顔を上げた時、開け放たれていた窓のライトイエローのカーテンが揺れ、朝のおだやかな風とともに桜の花びらがひとひら部屋に舞い込んできて、こたつの上に置いた点けっぱなしだったノートパソコンのキーボードの上にひらりと落ちた。
その青白く光る15インチの液晶モニターいっぱいには、最大化されたテキストエディターソフトに、寝落ちする前に書きかけていた小説の文章が、それは書き殴られた粗く稚拙なものだったが、映し出されていた。
導入は、卒業二十周年を記念して開かれた大学サークル同期生の慎ましやかな飲み会での会話、思い出話と現況報告から始まる。
その小説のタイトルはもう決めていた
『桜の樹の下には"したい"が埋まっている』だ。
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