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──今日、私は新しく生まれ変わる
生まれ変わると言っても、赤の他人になったり記憶が書き換わるとか、そういうSFじみたものではなく。
単純に、お嫁さんになるのだ。
鏡を前にして、めかし込んだ自分の姿ににやける。良くお似合いですよとスタッフの女性も言ってくれる。
気分が良い、というのは、確かにそうだ。けれどそれより、ずっとずっと嬉しさが勝つ。
今日、私はあの人の妻になる。
楽しかった事を思い出す。好きな映画が同じだったり、ふざけたユーチューバーに笑い合ったり。
悲しかった事を思い出す。飼っていた犬が死んでしまった時、ふとしたきっかけで喧嘩してしまったり。
でも全て、素敵な思い出だ。彼との記憶なら、そう断言できる。
──扉が開く。ヴァージンロードが目に入る。次いで、厳かな赤い道の両脇を埋める、人々の顔。
緊張していたり、真剣に見つめていたり、いっぱいの感情をありったけ向けてくれて。面映ゆい、むず痒い気持ちがちくちくと背中を刺す。
たまらず、ヴァージンロードの終点へ視線を向ける。行き止まりの演壇で、彼は優しく微笑んでいた。
早くおいでと言いたげに、小首を傾げている。その仕草が愛おしくて、早く触れてみたくて、私は少し早足で歩き出す。
誰も彼もが私に視線を注ぐ。これからの人生とは別の、違う私になるのを目撃する為に。
──ありがとう。そう不意に考える。今までの全てに、ありがとう、と。
私は深い、感謝を胸に終点へたどり着く。
彼が柔らかく微笑みかける。
私はめいっぱいの笑顔を作る。差し出された手に触れて、嬉しくなって、私は自分の中の感想を素直に述べる事にした。
──ありがとう。
「私いま、すっごいしあわ」
バツン。
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