傷を彩る

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「なんで私ばっかり」 何度呟いたかわからない言葉。辛いこと、悲しいこと、苦しいこと。溜め込んで、重なって。もう限界なのかもしれない。 「…?なにこれ」 スマホに出てきた『傷に彩りを与えます』と書かれたサイト。 「胡散臭いな……なにこれ」 そんな言葉だけじゃ何もわからない。危ないサイトかもしれないが、思わず開いてしまった。 『嫌だったことや悲しかったこと、そんな経験をしたことはありませんか?そんなときはここに書き込みましょう!きっと共感してくれる人がいます』 いわゆるSNS、だろう。前にアカウント作って色々呟いたことはあったけど続かなくて辞めたんだっけ。しかもそんな内容限定のSNSなんて……ますます怪しい。 「……多いな」 スクロールしても数え切れないほどの投稿数。こんなに、悩みを抱えている人がいるんだ。 ユウ、という名前で登録してみた。ありきたりな名前だから気に入って使っている。  『みんな私にばっかり仕事押し付けてくる。なんなんだろ』 学校で、入りたい人がいないからという理由であまり興味のない生活委員会を押し付けられ、その委員会でも仕事を押し付けられている。部活も、みんな事務作業を大体全部私に押し付けてくる。本当に、なんでだろう。 『わかる〜』 『俺も押し付けられることよくあるわー』 数分すると、何件かコメントがついた。 「すご……」 コメントにリアクションをつける。コメントをつけてくれた人の投稿を見ると、結構似たようなこととか、またさらに違ったことが書かれている。 『教室で喋るだけでみんな私の方見てくるんだけど……』 『一人称が僕ってだけで笑われた』 『学校行っても友だちいないし……辞めよっかな』 自分の悩みを打ち明ける場所なだけあって、学生のユーザーが多いように感じる。もちろん社会人もいる。 「あ……これわかるな、これもわかる」 学校生活における悩みというものはやはり共感できるものばかりだ。見ているだけでなんだか自分の心が少し軽くなってきたような気がした。考えることというのは似ていて、悩みも似ている。形は違えど、みんな何かしらのものを抱えている。 「すごく居心地がいいな、ここ」 少し見ていると、気になる内容のものがあった。 『私がいてもみんな迷惑だよな……』 ふと目に止まった。暗い内容ではあるが他にももっとある。『そんなことないよ』と送ろうとしたが何故か指が止まる。 「…これ、否定することになるんじゃ」 私は、この悩みを抱えていない。だからそう思うんだ。 アカウントをログアウトし、そっとスマホを閉じた。なんとなく、罪悪感が沸いてきてしまったから。 窓をそっと開ける。気がついたら夜の10時になっていた。 「私の抱えてるものって大したことなかったのかな」 そんな言葉をふっと呟いてしまった。 悩みなんて人それぞれ。大きさも捉え方も。傷に付いてしまった色は人それぞれなのだ。
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