日曜日

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 ライブは順調に進み、気づけば4曲目が終わっていた。観客のスタミナは切れること知らないのか、さらに盛り上がりを見せる。 「ありがとう。…次が最後の曲だ。」 すると客席全体で落胆の声を響かせた。 「ラストを飾るのは俺じゃない。」 客席が一瞬どよめく。 「俺たちは、今から演奏する曲に全てを賭ける。」  幸介は俺の方をゆっくりと見た。  幸介の視線を追うように客席の視線が一気にこちらに刺さる。幸介はそのまま後ろに下がり、俺の立ち位置へ向かった。  不思議と緊張はしなかった。俺は堂々とマイクの置いてあるステージ中央へ幸介と選手交代をするように歩き出した。一歩、一歩、歩みを進めるたびに歓声が大きくなる。  幸介の身長に合わせたマイクスタンドを少し下に調節をする。  あーっと声を出して音を確認してから、俺はふーっと息を吐いて目を瞑る。すると、期待に膨らんだ客席が段々と静かになった。それは破裂寸前の風船のようにも思える。  静かになった頃に目を開けて、俺は息を思い切り吸い込んだ。 「今日は、ライブを見ていただいてありがとうございます。皆さん、楽しかったですか!」 風船は派手に破裂した。客席は今までで最高潮に大きな反応を見せる。歓声で鼓膜が破れそうだ。でもそれは最高に気分が良い。 「俺らも楽しかった!この瞬間をもう味わえないのはすごく寂しい!」 俺は客席の反応に応えるように叫ぶ。 「最後の曲はここにいる幸介と俺、それから」 後ろにいる幸介をチラリと見てから、再びマイクに語りかける。  「もう一人の友人と作りました。」  ボーカルの立ち位置は客席を全て見渡せた。俺は客席にいる人々の顔を眺める。 「ここに立つことが出来たのは、色々な人たちの協力と目の間にいる皆さんです。」 「だけど!」 マイクを強く掴んだせいか、ハウリングが起こる。 前方にいた観客が耳を塞いで顔を顰める。少し申し訳ないと思いつつ、口を開く。  「ここに立つ覚悟を決めたのは自由になろうとした俺の意思だ。」  ドラムとベースの音が緩やかに流れた。
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