余声

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 私は立ち上がり、洗面所を目指した。瞼は泣きすぎて腫れ上がっている。鏡の中の顔は、靜叔父さんに似ても似つかない。思わず失笑する。だけどぼんやりと、どこか血の繋がりを感じる。ひょっとしたら血ではなく、表情であったり、思考であるのかもしれない。  私は、彼が遺したものでできている。そして母が与えたものでも。関わったすべてのものの影響を受けて生きている。  母が私の幸せを願ったように、靜叔父さんも私の幸せを願っていた。幼い命を慈しむ心が、誠実な態度が、私はずっと好きだった。  私はこれからも靜叔父さんのことを忘れ続けるだろう。その時、靜叔父さんは声から消えていく。  だけどふとした時に、私は靜叔父さんの声を思い出す。似ている声、同じ言葉、靜叔父さんと過ごしたこの体が、彼のことを覚えている。  これから何をしようか。靜叔父さんのいないこの世界で。  それは追々考えるとして。とりあえず、母とコーヒーでも飲むことにしよう。これからの日々の、幸せの第一歩として。 -了-
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