7 -In Your Own Sweet Way-

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7 -In Your Own Sweet Way-

 週末、わたしは京都にある老舗のジャズクラブにいた。客入りは、まずまずといったところ。わたしは壁際のテーブル席で、オレンジジュースを口にする。  開演時間を過ぎるとBGMが消え、客席の照明が落ち、ステージにライトが当たる。店内は自然と静まって、皆がステージに注目する。  ステージにドラムスとベースが現れ、楽器の準備を始める。  そして少し遅れて、空色のスリーピーススーツを着た、星森誠也が現れた。  スラリとした体格で綺麗な顔立ちをしているけれど、柔らかそうなくせっ毛が決まりすぎてない印象を与えている。今夜もゆったりとグランドピアノの前に腰掛け、ドラムスとベースに、目配せをする。  今夜の一曲目は、デイヴ・ブルーバックの名曲、"In Your Own Sweet Way"(あなたの好きなように)だった。誠也さんの指は曲目のとおり、自由気ままに思いつくまま旋律を奏でているように聴こえる。  これから、わたしの初めての恋が始まるのかな。知らない世界に飛び込むのは、やっぱり緊張するよ。今日が、パパが世界一格好いいって思っていた、最後に日になってしまうかもしれない。  そういえば、と急にわたしは思い出した。今日まで無事にこのジャズクラブに来ることだけに気を取られていて、誠也さんとわたしが叔父と姪の関係だとしたらどうするのかという問題を、わたしはいつの間にか考えることをやめてしまっていた。  でも、いいんだ。答えが出ないことを考えるより、わたしはママの助言のとおり、自分の気持ちを一番大切にしたい。  ママだってきっと、言ってくれると思う。"In Your Own Sweet Way"(あなたの好きなように)って。
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