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第二階層
カロンが呆気なく敗れたとの報告を受けてソフィーは表情を変える事なく腕組みをした。
「当たり前だ。カロン程度で魔女たちを止められるなど毛頭思っていない。第五階層までは奴らの魔力を確認するための撒き餌に過ぎぬ」
ソフィーはそう言うとカロンの脳裏から送られて来た映像を確認する。
「木星の魔女ロザーラの炎系魔法か。ロザーラの森で私と戦った時と大差ない。他の魔女たちの魔力と魔法をここに来るまでに丸裸にするのが目的よ。それ以外にも少しばかり趣向を凝らしてある。面白い余興を見られると楽しみにしているのでな」
フードで顔が見えないが、ソフィーの口元が緩んでいるのが部下たちからはっきりと見て取れた。
「ロザーラ、大丈夫か?」
ルナの声がけにロザーラは腕の埃を振り払う仕草をしながら心配ないと答える。
「あの程度なら準備運動程度。何の問題もないな。それより先に進もう。この先もこんな感じでいけるとは限らないからな」
ロザーラはそう言うが、炎系の最大火力魔法をまともに受けてノーダメージという事はないでしょうと、エレナが回復魔法を唱える。
「これは。。」
確かに多少のダメージはあったが、我慢できる程度と思っていたロザーラの体力がみるみる回復していく。
「回復系魔法が主の魔女がいるんだから、やせ我慢と無理はしなくていいのよ」
エレナがにこりと笑ってそう言うとロザーラは少し照れながらお礼を言う。
「ありがたい。助かるよ」
第一階層をロザーラの活躍で難なく突破したルナたちは次の第二階層に進む。
それからどれくらいの時間と距離を歩いたであろうか。
ルナたちの感覚では少なくとも半日は歩いたような気がする。
距離にしたら十数キロといったところだ。
「予想はしていたけど、先が長いな」
「俺はルナ殿と一緒にいられていい旅ですぜ」
「私は変態と一緒で最悪の旅なんだけどな」
「俺は変態なんて名前ではありませんぞ」
「名前じゃない、言動の事を言っている」
相変わらずルナに何を言われても平気な顔のミルコとそれを見てくすくすと笑うエレナとジャンヌ。
呆れ顔のロザーラとヴェラ。
いつもの光景であるが、ミルコがふと前を見て真剣な表情する。
「どうやら次の城門に到着したようですな」
ミルコが指差す先に第二階層の城門が見えた。
そこには第一階層と同様に城壁の上に番人らしき人物が立っている。
「俺は第二階層の門番ニクスだ。お前たちがルナムーンとその仲間たちか」
「私がルナムーンだ。ここを通してもらえないだろうか」
「ソフィー様の許可を得ない者は何人たりとも通す訳にはいかぬ」
ニクスの返事を聞いてルナはやれやれとため息をつく。
「自分から最下層に来いと言っておいて、城門は通さないってどういう事なんだか」
「私たちが辿り着けるかワイングラスでも片手に持ちながら楽しんでいるんじゃない」
ジャンヌの皮肉に全員が同意する。
「俺が戦おう」
ミルコが前に出ようとするのをヴェラが手で押さえた。
「ここは私に任せて」
「お嬢さんにお任せするのは俺の気が引けるんですがね」
「さっきも言ったけどあなたより二百歳は年上だから。年上の言う事には従うものだよ」
「わかりました。ではお任せしましょう」
ミルコを制してヴェラが戦う事となった。
ルナたちは初めて会った木星の魔女ヴェラの魔力をよく知らない。
仲間になったからには彼女の実力を見てみたいとこの戦いを見つめる。
ヴェラが魔法を唱えると体が宙に浮かんだ。
「これは? 私が風の魔法を使って僅かに浮かぶのとは違う」
「ヴェラの魔法は超能力に近いとしか私も聞いた事がない。実際に見るのはこれが初めてなんだ」
「ほう、これはなかなかに興味深い」
ロザーラにそう言われてルナもミルコも他のメンバーもみんな興味深く見ている。
ヴェラは城壁の上まで魔法で飛んでニクスの前に立った。
「私は土星の魔女ヴェラ。あんたに恨みはないけどここは通らせてもらうよ」
「面白い、力づくで通ってみろ」
ニクスがそう言うや否やヴェラは先手必勝とはかりに魔法を放った。
「地属魔法『グランドストーン』」
ヴェラの魔法が放たれると異空間から拳ほど土の塊が無数に現れてニクスに向かって飛んでいく。
「ふん、こんなもの」
ニクスは棍棒で土の塊を弾き飛ばす。
「これならどうかな?」
ヴェラは再びグランドストーンを放つがニクスにすべて弾き返されてしまう。
「土星の魔女がどの程度が楽しみにしていたが、こんなものか」
ニクスが攻撃に転じようと棍棒を構えて前に突進しようとした時であった。
体が何かに引っかかって前に進めない。
「なんだと?」
ニクスは自分の体が動かない事に気がついた。
「体が動かない。。どうなってやがる?」
「地属魔法『スパイダーネット』。さっきの魔法は単なる目眩しさ。あんたがそれに気を取られた隙に背後にネットを張っていたというわけ」
ニクスは必死でもがいたが、もがけばもがくほど蜘蛛の巣のようなネットが体にまとわりついて身動きが取れなくなった。
「土星の魔女の実力はこんなものよ。じゃあね。空間魔法『ダイヤモンドカット』
ヴェラが魔法を唱えると、ニクスの体ごと周りの空間がダイヤモンドの形にカットされるように切り裂かれ、切られた肉体は異空間へ吸い込まれるように消えていった。
「一丁上がりよ」
「恐ろしい魔法ね。敵じゃなくてよかったわ」
ルナが初めて見る空間魔法に驚くが、ヴェラはため息混じりに話す。
「これでもソフィーには通じなかったんだ。少なくとも幻影にはね。あいつの本体相手に通じるかはやってみないとわからない」
ルナはふと考えていた。
「おかしい。第一階層、この第二階層ともあまりにも呆気なさ過ぎる。何か罠でもあるんじゃないか?」
「おそらくは最深部にまで誘い込まれているのでしょうな。戦術的にもよくあるやり方だ」
わざと負けて撤退するフリをして敵を自陣の奥深くまで誘い込むのは戦術の常套手段の一つである。
「あのソフィーがわざと負けるようなタマかな? 何かあるんだろう。いずれにしろ、私たちには引き返す道はない。先に進んでソフィーを倒すのみ」
ルナたちは第二階層も難なく突破し、次の第三階層に向かう。
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