出会い

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「百人近くいた兵士がたった二人にやられて引き上げただと!」 兵隊長の報告に国王ジェロームもエンリコも信じられないと言った表情であった。 「やはり彼奴らは油断のならぬ相手でございます。このままでは国内はますますエレナの魔法によって混乱する事でしょう。かくなる上は討伐軍を編成して再度行方を追う事にした方がよろしいと思われます」 「討伐軍だと? いくら魔女とはいえ、女と訳のわからぬ剣士のたった四人に三千人からなる軍を出動させるというのか」 「叔父上、これには国内の反乱を抑える意味もございます。魔女だけではごさいません。王に逆らう者は何人たりとも容赦しないという事を見せつけるのです」 討伐軍とはセントレイク王国が外敵に侵攻された際にそれを迎撃するために組織された軍であった。 本来であれば内的要因に出動させるような部隊ではない。 「さすがにそれは許可出来ぬ。警備兵たちを総動員してエレナたちを捕えるのだ」 エンリコの案はジェロームによって却下された。 「ちっ。さすがに討伐軍までは動かさなかったか。まあいい。警備兵だけでも五百人はいる。奴らを精神的に追い詰めて疲弊させてやる」 ☆☆☆ ルナはエレナたちにミルコも加えてセントレイクの宮殿に向かっていた。 その途中、ルナはジャンヌに疑問に思っていた事を話しかけた。 「ねえ、ジャンヌはどうしてエレナの従者をやっているの?」 「そうね、彗星の魔女は代々金星の魔女に仕える間柄だったってのもあるけど。。」 ジャンヌはエレナと初めて出会った日の事を思い出す。 「父上、お呼びでしょうか?」 当主である父に呼ばれたジャンヌはどんな用件か聞く前に予想がついていた。 「ジャンヌ、お前も十四歳になった。そろそろ次の金星の魔女となるお方にお仕えしなけらばならぬ」 〔やっぱりその話か。。〕 ジャンヌはため息をついた。 彗星の魔女を継ぐ者は金星の魔女に仕えるのが代々の慣わしであり、ジャンヌもいずれはそうなると言われていたから頭ではわかっていた。 だが、実際にその時が来てみるとまだ心の準備が全く出来ていない。 ちなみに魔女の一年は普通の人間の十年に相当する。 ジャンヌは人間の年齢で言えばこの時百四十歳という事になる。 「父上、私にはまだ準備が出来ておりません。出来ればもう少し待って頂きたいのですが」 「先方にはすでに後継者がいるのだ。そうなれば我が家もそのお方に早急にお仕えせねばならない。この状況に及んで準備などと悠長な事を言っている時間はない」 まいった。 ジャンヌは言い逃れは出来る状況ではない事を悟り観念せざるを得なかった。 「もう少し自由な時間を満喫したかったな。金星の魔女か。。どんな人なんだろう」 馬に乗りながらジャンヌは考え事をしていて目の前に野うさぎが通りすぎたのに気が付かなかった。 馬がそれに気がついて前足を高く上げたために、ジャンヌは馬の背から放りだされて落馬し、その勢いで体が転がり木に当たって背中を強く打ちつけて身動きが取れなくなってしまった。 「痛った。。やってしまった。考え事をしていて周囲に気を配っていなかった」 背中の痛みで身動きが取れず、自力で起きあがろうにも背中に激痛が走り体を動かす事も出来ない。 「こうなったら魔法で。。」 だが、父親の言葉が脳裏に浮かんだ。 〔我が一族の魔法は特殊なものだ。よほどの事がない限り使用を控えよ。一歩違えば世界を混乱に陥れる事になろう〕 「父上からはそう言われてるけど。。この状況じゃ使わざるを得ない。自分の身を守るためだ、許してもらえるよね」 ジャンヌはそう思って魔法を唱えようとすると「どうしたの?」と声をかけてくる少女の姿が見えた。 少女は金色の髪にアイスブルーの瞳が印象的な可愛らしい女の子であった。 「怪我をしているのね。今、治療してあげるわ」 「治療? 回復系の魔法が使えるの?」 「ええ、私の家は癒しと回復魔法を習得する家柄だから」 少女はそう言って回復魔法でジャンヌの怪我を治癒していく。 背中の痛みがあっという間になくなり、立ち上がって動けるようになった。 「凄い! まるで何事もなかったように体が動く。ありがとうございます。お礼に何か差し上げたいのですが、あいにく今は手ぶらでして。。」 「お礼なんていいわ。私は自分の出来る事をしただけだから」 「せめてお名前を聞かせて頂けませんか」 「私は金星の魔女エレナって言います」 「金星の魔女!」 ジャンヌはエレナを思わず見つめてしまう。 「あなたが金星の魔女の後継者なのですか?」 「ええ。私を知っているの?」 「私は。。あなたに仕える彗星の魔女ジャンヌと言います」 それを聞いて今度はエレナが驚く。 「彗星の魔女。ではあなたが私に。。」 二人は互いに見合わせるとくすっと笑った。 「これも何かの縁なのね。でもあなたで良かった。どんな人が仕えてくれるのか不安だったんだ」 「私も。どんな人に仕える事になるのか不安で正直行きたくなかった。でもエレナ様なら安心しました」 この時、エレナは十八歳。 ジャンヌとは四歳違いであった。 二人は主従ではあったが、まるで姉と妹のような気軽に何でも話せる間柄となった。 「そうか、エレナに助けられて恩義も感じていたんだね」 「あれ以来、私は家柄に関係なくエレナ様に生涯仕えると心に決めたんだ。エレナ様にはそんな不思議な魅力があった」 「わかる。私も今日初めて会ったのにエレナにすっかり魅了されているもん」 それを聞いていたエレナは少し顔を赤らめて照れている。 「今だから言うけど、実は私はジャンヌって知ってて声をかけたんだよ」 「え?」 「私に仕える彗星の魔女がどんな人なのか気になってね。あの日、あなたの家を訪ねていったら馬に乗って外出しているってお父様から聞いて。それで探しているうちにあの場面に遭遇したってわけ」 「そうだったんですか」 ジャンヌは初めて聞く告白に驚いたが、主となるエレナがわざわざ従者であるジャンヌを訪ねてくれたという事に感激した。 「奇遇ですな。俺もルナ殿にすっかり魅了されてしまいまして。。」 「あんたは女なら誰でも魅了されるんでしょ」 「何をおっしゃいますか。ルナ殿の魅力は夜空に浮かぶ月の如くこの地上で光り輝いて俺の心に突き刺さったのですぞ。これを運命の出会いと呼ばずにはいられません」 「歯が浮く。。このキザ男、やっぱり味方にするんじゃなかったな」 ルナはゲンナリするしかなかった。
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