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危機
その頃、セントレイクの宮殿は国王派と王妃派の二つに分かれての抗争にまで発展していた。
エレナ派である国王ジェロームの甥、ジュリアンは死罪を覚悟でジェロームに詰め寄った。
「叔父上、あなたは何に対してそれほどお怒りになられているのですか?」
「決まっておろう。王妃が裏切り者であった事だ」
「王妃がいつ裏切られたのですか? 王妃は叔父上を裏切ってなどおりません。確かに魔女であった事は驚きでした。しかしその事がなぜ裏切りになりましょう。
王妃にしてみれば言い出せない事であったのだと思います。王妃はとてもお優しく聡明なお方です。叔父上は王妃を、エレナ様をその程度にしか見ていなかったのですか?」
「そのような事お前に言われなくともわかっている」
「ならばエレナ様への追跡命令を解除して元通り王妃としてお迎え入れ下さい。エンリコのような下賤の小物の言う事に騙されてはなりません」
しかし、この話をエンリコが聞いていた。
「ジュリアン、国王に対してあまりにも無礼であろう」
「黙れ! セントレイクを滅亡に追いやろうとする愚か者が。恥を知れ」
「恥など見た事も聞いた事もないわ。必要なのは力。権力こそ我がすべて」
そんな言い合いをしている最中に兵士から報告が上がる。
「エレナたちがこちらに向かって来ます」
「自ら死にに来たか」
エンリコは宮殿内の兵士たちにエレナたち四人の討伐を命じた。
「全員斬って構わぬ。裏切り者を生かして帰すな」
エンリコが意気揚々とエレナたちの討伐命令を出しているのを見てジュリアンは再度国王ジェロームに進言する。
「叔父上、いま一度お考え直し下さい。さもなければ私はエレナ様について叔父上と対峙する事になりましょう」
「ジュリアン、お前は甥でありながら叔父であるわしに反逆するというのか?」
「反逆ではありません。国を建て直すのです」
「ぬう。。」
ジュリアンはそれだけ言うと王の部屋から退出した。
☆☆☆
「エレナ、ジャンヌ。ここからは私とミルコが前で敵兵を排除していくから気をつけて」
「わかりました」
「ルナ殿、早速おいでなすったようですな」
宮殿の入り口にはすでに百人を超える兵士たちが槍や弓を構えていた。
その光景は壮観ですらあった。
「ミルコ、行こう」
「承知した」
ルナは魔法をミルコは剣を走り出すと同時に抜き放つ。
「氷の魔法『オルガ』」
兵士たちが矢を放つが氷の中級魔法オルガによってことごとく弾き返され、氷柱が兵士たちを襲う。
ミルコの剣が相手を斬り倒していく。
二人はまるで無人の野を進むが如く城内の兵士たちを薙ぎ倒していく。
あたりには血飛沫と阿鼻叫喚がこだまする
それを見てエレナはジャンヌにあなたも行ってと声をかける。
「ジャンヌ、私に構わずあなたも行ってあげて。少しでもルナたちを手助けしたい」
「わかりました」
ジャンヌは従者なだけあって、いざとなればエレナを守るための剣術を身につけていた。
「ルナ、ミルコ殿。一緒に戦います」
「ジャンヌ、ありがとう」
「美人な上に剣も出来るとはジャンヌ殿も隅に置けませんな」
「あんたは隅に置いて蓋をして上から石を被せて二度と出て来れなくしたいけどね」
「ルナ殿の俺への言葉はすべて愛あるがゆえの裏返し。そう思えば愛しくさえ感じますぞ」
「どういう感覚しているんだ、まったく。。」
ミルコに何を言っても無駄と知りルナは戦いに集中する。
たった三人に五百人近くいた兵士たちが恐れをなして自然に道を開けるように避けていく。
「これ以上無駄な戦いはやめるんだな。俺たちの狙いはエンリコだけだ」
ミルコがそう言うと兵士たちは戦いながらエンリコの姿を探すようにあたりを見回した。
これはまずいとエンリコは近くにあった鎧甲冑の置物から兜を取ってとっさにかぶり顔を隠した。
「こうなればエレナだけでも」
エンリコは手には槍を持って兵士たちが入り乱れる廊下を避けるように端をするりと抜けていく。
ルナとミルコ、ジャンヌの三人は戦いに気を取られている。
その隙をつき、エレナの背後にこっそりとまわった。
エレナも戦況に気を取られて背後をまったく警戒していなかった。
そこにエンリコはゆっくりと音を立てずに近づいていく。
そして槍をエレナ向けて投げつけた。
「きゃあああ」
槍はエレナの背中に突き刺さり、そのまま胸まで貫通した。
「ははは。見たか! この手で王妃になりすました魔女を成敗してやったぞ」
「がは。。」
口から大量の血を吐いてエレナは苦しそうにその場に倒れた。
「エレナ!」
「エレナ様!」
ルナとジャンヌがかけ寄ろうとするが、兵士たちに遮られる。
「ちくしょう。どけ!」
ルナが氷の魔法、風の魔法を同時に発動して何とかエレナの元に近づこうとするが、ジャンヌはショックが大きいのかその場に立ったままだ。
「ジャンヌ。。」
ルナが声をかけるが、ジャンヌは呆然どしたままだ。
「ジャ。。ンヌ。。」
エレナはジャンヌの名を呼ぶが、そのまま力尽きて動かなくなった。
「エレナ様あああ。。私が。。私が側から離れたばかりに。。」
ルナも動揺とショックから動きが止まってしまい、兵士たちに取り囲まれる。
一人ミルコだけが剣を振り、状況を打開しようと奮闘していた。
「エレナ。私たちがついていながら助けられなかった。。」
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