ソフィー再び

1/1
前へ
/51ページ
次へ

ソフィー再び

「木星のヴェラの空間魔法か。少しばかりやっかいだな」 ソフィーはニクスから送られて来た映像を見て怪訝な表情を浮かべる。 空間ごと切り裂く魔法。 幻影であれば問題ないが、本体がこれにかかればいくらソフィーと言えども体を切り裂かれて異空間に吸い込まれるであろう。 「木星のヴェラ。早めに始末しておくか」 ☆☆☆ 第二階層から第三階層まで再び体内感覚で半日ほどあるいたルナたち。 当然食べ物、飲み物などあるはずがなかったが、ここでもエレナの回復魔法が効果を発揮した。 体力回復の魔法「エンゼルキュア」で全員の体力を維持していたのだ。 ただ、この魔法は自身にはかけられないため、エレナはまずルナの体力を回復させ、今度はルナがエレナに同じ回復魔法「ヒーラー」をかけるというやり方をした。 これはエレナは一度に数十人を回復させられるが、ルナは一人しか対応できないためであった。 「回復系魔法の使い手が二人いると助かるわね」 「エレナは一度に全員を回復させられるけど、私は一人しか回復させられないんだ。回復魔法をもう少し勉強しておけばよかったな」 「回復系の魔法が使えるだけでも大した者なのよ。他の攻撃型魔法は水、炎、風いずれもイメージしやすいけど、回復魔法はその人が怪我をする前の状態をイメージするわけだから難易度がはるかに増す。 だから使える人も限られてくる。私も一族以外では月の魔女しか回復魔法を使える魔女を見た事がないわ」 「そうなのか。確かにルナとエレナ以外で回復魔法を使える魔女にあった事がないな」 ロザーラもエレナの説明に納得したようであった。 そんな話をしているうちに次の城門に辿り着いた。 第三階層の番人はヒドラと言った。 水系の魔法を使う魔法使いであった。 「今度こそ俺が行かせてもらいますぞ」 「安心して、誰も止めないから」 「ルナ殿に安心してと言われると心置きなく戦えますな」 「どう言う意味にとらえているんだ」 「ミルコはルナの言った事はすべて自分の都合のいい言葉に変換しちゃうんだよね。ある意味凄いよ」 ジャンヌにそう言われてルナは首を振って意を唱える。 「何にも凄くないから。迷惑なだけ」 「そう言うけど、ルナ最近何気にミルコといると楽しそうなんだよね」 「ジャンヌ、いい加減にしないと怒るよ」 「おお、怖い」 ルナとジャンヌがそんなやり取りをしている間にミルコはヒドラの前に立つ。 普段はキザで軽口を叩いていても戦うとなれば一流の剣士である。 「何だ、魔女じゃなく人間が相手か。舐められたものだな」 「あいにくと俺は強いんでね。そんな口を叩いた事を後悔するぜ」 ミルコのひと言に頭に来たのか、ヒドラがいきなり水の中級魔法「スレイア」を放った。 高圧の水鉄砲で相手を吹き飛ばす魔法である。 「おっと」 ミルコが剣を高速で回転させると、ヒドラの放った水の高圧鉄砲は剣に弾かれて四散する。 「なるほど、人間にしてはやるな」 「男に褒められても気持ち悪いだけだ」 「いつまでもでかい口叩いていられると思うな。水の最大魔法『スレイガ』」 ヒドラが魔法を詠唱すると巨大な竜巻が発生する。 「竜巻に飲み込まれて死ぬがいい」 十メートルほどの高さの竜巻が唸りを上げてミルコを襲う。 巻き込まれてしまったら空中高く放り投げられてそのまま十数メートル落下し、戦闘不能は確実であろう。 だが、ミルコなら避けられる速度であった。 しかし、二つ、三つと竜巻を連続で出されては、巻き込まれないように逃げるのが精一杯でヒドラに近寄ることが出来ない。 「ミルコ、私が代わろうか?」 腕を組んで見ていたルナが後ろから声をかける。 「おお、ルナ殿。俺を案じてくれるその気持ちだけで勇気百倍ですぞ」 「誰が心配なんぞするか! あんたは単純だからそう言えば力を発揮すると思っただけよ」 ルナはひと呼吸おいて付け足した。 「そんな奴、あんたの敵じゃないだろ。早いところ始末しちゃって」 「勅命、承りました」 ミルコはそう言うと笑顔を見せる。 「別れの挨拶は済んだか? ならばとどめを刺してやる」 ヒドラが再び氷の最大級魔法「スレイガ」を詠唱しようとした瞬間であった。 ミルコが剣を勢いよく投げ、剣は矢のような速度で一直線にヒドラの胸に突き刺さった。 ミルコは間髪を入れずに一気に前に突進し、ヒドラの胸に刺さった自らの剣を持つとそのまま体を切り裂いた。 断末魔の悲鳴をあげてそのまま霧状に消えていくヒドラ。 「またルナ殿に褒められてしまうな」 「強いな。さすがルナが味方にするだけの事はある」 ロザーラがそう言うとルナはつまらなそうに「あいつならあれくらい当然」と返した後でふと疑問に思った。 「最初から本気だせばあんな奴ミルコの相手じゃない。まさかあいつ私にひと声かけさせるためにわざと手こずっていたんじゃ?」 そこまではさすがにルナの思い込みで、実際にミルコは最大級魔法に手こずっていたのは確かであった。 いくら素早くかわしても竜巻を避けながらどうやってヒドラに近寄るかを思案していたのだ。 結果、剣を投げればいいとの結論に辿り着いた。 ミルコは剣投げでも十メートル以内なら百発百中のコントロールの実力であった。 「ルナ殿の声援が力となって勝つ事が出来ましたぞ。やはりファンは持つものですな」 「誰がファンだって? あんたのファンがどこにいるのか逆に知りたいね」 「ほらほら、痴話喧嘩しないで。勝ったんだから良しだよ」 ジャンヌがふざけてそう言うまでが完全に一連の流れになっていた。 第三階層を突破した。 その場に居た全員がそう思った時、突然黒い霧が現れた。 それがソフィーである事はここにいる全員が知っている。 「ソフィー?」 ルナがその姿を確認して防御体制を取るが,ロザーラが声を上げる。 「いや、こいつは幻影だ」 相変わらずフードを深く被り、顔の表情が伺えない。 「第三階層までは難なく突破したようだな。お前たちの戦いは一部始終見させてもらっている」 ロザーラがスティックを投げつけるが、予想通りソフィーの体をすり抜けてしまう。 「雑魚どもに用はない。木星のヴェラ、お前にはここで死んでもらう」 「ヴェラ!」 「水の防御魔法『アクアウォール』」 ヴェラが魔法を唱えると水の壁がヴェラの前に張られた。 直接的な攻撃であればこの水の壁に遮られてヴェラには届かない。 「なるほど、色々と厄介な魔法を使うな」 ソフィーは右手をあげると体の周囲を覆う黒い霧がその右手を中心にに渦を巻くように集まっていく。 「暗黒魔法『デットエンジェル』」 ソフィーの右腕から黒い光がヴェラの胸に目掛けて放たれた。 光はアクアウォールを通り抜けてヴェラに直撃したが、何ともない。 「何だ? 今のは?」 「ふふふ。お前たちがコキュートスまで辿り着けたら褒めてやろう」 ソフィーはそれだけ言うと再び姿を消した。 「何をしに来たんだ?」 ルナも他のメンバーもソフィーの考えと行動が読めず首を傾げる。 「ヴェラ、大丈夫か?」 「ああ、この通り何ともない」 ヴェラの言葉を聞いてルナたちは一安心し、一同は第四階層を目指して進み始めた。 だが、しばらくしてエレナは気がついていた。 ヴェラの顔色が良くないことを。 ヴェラは突然体調に異変を感じていたのだ。 そして過去に知り得た魔法の知識から恐ろしい事実に血の気が引いていた。 〔デッドエンジェルを受けてしまった。。私の知り得る知識に間違えがなければ、私の命はあと一時間。。〕
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加