ヴェラの死

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ヴェラの死

ヴェラは少しずつ息が切れ始めていた。 その異変に真っ先気がついたエレナが声をかける。 「ヴェラ、どうしたの? 顔色が良くないように見えるけど」 「エレナ。。」 ヴェラはエレナに事実を伝えるとエレナは驚愕の表情を浮かべる。 「さっきソフィーが放った『デッドエンジェル』という魔法。あれは受けた直後は何ともないけど、一時間後に心臓が止まって相手を死に至らしめる暗黒魔法。私はそれを受けてしまった」 「なんですって? すぐに回復魔法を。。」 「無理だよエレナ。『デッドエンジェル』を解毒する魔法は存在しない。私はあと三十分しないうち確実に死ぬ。すでに息が切れ始めているんだ」 ヴェラが苦悶の表情でハアハア言いながら息をしているのを見てエレナは何とかデッドエンジェルの効果を無くそうと回復魔法をかけるが、ヴェラの表情に変わりはない。 ここまでくるとエレナだけでなく、ルナたちもヴェラの異変に気がついていた。 「ヴェラ、どうした?」 「具合でも悪いのか?」 ルナとロザーラが相次いで声をかけると、ヴェラは苦しそうに胸を押さえてその場にうずくまってしまう。 「ヴェラはソフィーの暗黒魔法を受けてしまったの。このままだとヴェラの命はあと三十分持たない。。」 エレナがそう言うとその場にいた全員が言葉を失う。 「どうしてもっと早く言わなかったんだ。受けてすぐなら私の『時の魔法』で何とかなったかも知れないのに」 「。。受けた直後は何ともなかった。だからソフィーが何をしたのかわからないままやり過ごしてしまった。 それから十分ほどして体に異変を感じた時にこれが『デットエンジェル』という死の魔法だと気がついた時にはもう遅かった。。」 「そんな。。エレナ様、何とかならないのですか?」 「さっきから私もあらゆる回復魔法をやってみたけどダメだった。『デッドエンジェル』を解毒する魔法は現在の魔法界に存在しない。。」 全員が絶望感に包まれる中、当事者であるヴェラだけが気丈に振る舞った。 「どうせ私はもう助からない。残された二十分ちょっとの間で出来る事をしたい」 ヴェラはそう言うとルナを手招きする。 「ルナ、こっちに来て手を。。」 ルナは言われるままヴェラに手を差し出す。 するとヴェラはルナの手を握りしめた。 「私の残った魔力をすべて君に受け渡す。水、炎、風、回復の四つを操れる君ならきっと使える」 ヴェラは自身の魔力を手からルナに流し込んだ。 ヴェラがルナに伝授したのはソフィーが恐れていた空間魔法である。 苦しそうに息を切らせながら、ルナに「それ以上やめて!」と言われてもヴェラは手を離さず魔力を流し続ける。 それはただでさえ残り少ない自分の命をさらに縮める行為であった。 必死で手を離そうとするルナの体をロザーラが押さえつける。 「ルナ、ヴェラが最後の力を振り絞ってお前に魔力を受け渡しているのにその行為を無駄にするのか?」 「でも。。」 「ロザーラ殿の言う通りですぞ。ヴェラ殿の行為を無駄にしてはなりません」 ロザーラとミルコにそう言われてルナは感情をぐっと堪えてヴェラの魔力を受け取った。 すべての魔力をルナに流し終えるとヴェラは力尽きたようにその場に倒れた。 「ヴェラ!」 全員がかけ寄り,ルナとエレナは回復魔法を必死で掛けるが、ヴェラの具合が良くなる様子はなかった。 「ルナ、エレナ。もういい。これ以上回復魔法をやっても二人の魔力が減るだけだよ。せっかくルナに渡した魔力をソフィーとの戦いまで大事に温存してくれ」 「ヴェラ。。」 「みんな、ありがとう。少しの間だったけど楽しかったよ。。必ず。。ソフィーを倒して。。」 ヴェラはそう言った直後、口から吐血してそのまま目を閉じた。 そして二度と目を覚ます事はなかった。 ヴェラの体は光の粒となって高く上がり消えていった。 「ヴェラ。。」 全員が上を見上げてヴェラを見送った。 そして光の粒が消えると怒りが込み上げて来た。 「許せない。。ソフィー」 ルナは怒りをあらわにする。 これほどルナが怒りの感情を表すのは初めてであった。 ルナだけでなくジャンヌ、ロザーラにミルコもソフィーに対する怒りと憎しみを増幅させた。 ただ一人、エレナだけが助けられなかった後悔の念にかられていた。 「助けてあげられなくてごめんなさい。。」 エレナがそう言って上に向かい謝罪するのをミルコが肩を叩いて慰める。 「エレナ殿の責任ではありません。『デッドエンジェル』という魔法の存在を誰も知らなかったのだから不可抗力です。この上はソフィーを倒してヴェラ殿の敵討ちと致しましょう」 「ミルコの言う通り。エレナの責任じゃない。私たちみんな無力だった。私たちは前に進むしかない。行こう、みんな。必ずコキュートスに辿り着いてソフィーを倒す」 ロザーラの言葉に全員がうなづいた。 ヴェラの死はコキュートスにいるソフィーにも伝わった。 目の前には人骨で作った蝋燭が六つあり、小さな炎が燃えている。 そのうちの一つが消えたからだ。 「これはあいつらの魂を反映する炎。これが消えた時にはあいつらのうちの一人が死んだ事を意味する。 『デッドエンジェル』によってヴェラが死んだようだな。これで残る炎は五つ。 天王星、海王星、火星の魔女たちで十分だろう。 ただしルナムーン。お前だけはこのコキュートスまで辿り着かせてこの手で葬り去ってやる」
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