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閑話 狙われた村 前編
ルナムーンは次の国、セントレイク王国に向かう道中であった。
お金はフィリップ王子の依頼の報酬でそれなりにあるし、急ぐ旅でもなかったので馬を借りてのんびりと移動していた。
だが、そんな優雅な気分はその途中で立ち寄った村に入ってかき消されてしまった。
村は壊滅的な被害を受けていたからだ。
「これはいったい?」
ルナが村に入ると、わずかに生き残っていた村人の一人。まだ十五、六歳くらいの少女が近づいて来た。
「お姉さん、旅人なの? この村に入ったら危険よ」
「危険? 何があったの?」
ルナが少女に理由を聞くと、頻繁に現れる盗賊のためだという。
この村の近くを流れる川からは砂金が取れる事もあり、一攫千金を狙っている者たちが後をたたなかった。
盗賊はその砂金を目当てにこの村を襲って来た。
盗賊たちは腕が立ち、村の人たちも立ち向かいはしたが男はほとんど殺され、女たちは人質に取られて、老人と子供で砂金を取り、盗賊たちに上納する事で何とか命を繋ぎ止めていた。
少女は盗賊たちの食事の世話をするために側からされていて父は盗賊に殺害され、母と弟を人質に取られていて逃げる事が出来ないという。
「そんな酷い事を。。」
「だから早くこの村から離れた方がいいわ」
少女はそう言ってルナを村から離れるように促すが、ルナは「教えてくれてありがとう」というと手で少女を制した。
「そうと聞いたらこの村に滞在してその盗賊とやらを見てみたい。どんな奴らなのか」
「そんな。。あなたは盗賊の恐ろしさを知らないからそんな事を言えるんです」
「そうだろうね。でも私は大丈夫。盗賊なんて今まで何度も出くわしてるし、そのたびに撃退してるから」
「お姉さん盗賊を退治できるの?」
「たぶんね。だからどんな奴らか確認させてくれ」
少女は自分とたいして歳の違わないように見えるルナにどれほどの力があるのか疑問に感じたが、溺れるものは藁をも掴むと言うようにここはルナに任せてみようと考えた。
こうしてルナはこの村に滞在する事となった。
☆☆☆
その日の昼を過ぎた頃であった。
盗賊と思われる集団が村へやって来た。
「上納金」を回収するためだ。
「お姉さん、あいつらよ」
「わかった。みんなは危険だから隠れていて」
盗賊たちは十人であった。
「おい、上納金の回収日だ。さっさと取った砂金を持って来い」
盗賊のリーダーらきし男が怒鳴り声をあげるとルナがその前に現れる。
「お前たちにやる砂金など一粒たりともない」
「何だお前は?」
ルナはその問いには答えず要求を突きつける。
「さっさとここから出て行け。さもなければ痛い目にあってもらう」
ルナがそう言うと盗賊たちは一斉にバカにした笑い声をあげる。
「こりゃいいや。痛い目に合わせてもらおうじゃないか。おい、構わねえからやっちまえ」
盗賊たちが剣を抜いてルナに襲いかかろうとするところにルナの魔法が発動される。
「氷の中級魔法『オルガ』」
ルナは身動きを取れなくする初級魔法「オアロ」よりも威力のある中級魔法を放つ。
盗賊たちは腕や足を氷の氷柱に撃ち抜かれて悲鳴をあげる。
「うぎゃあ」
「痛え」
盗賊たちは初めて見る魔法に驚き、何とか反撃しようとするが、氷の魔法オルガの前に手も足も出ない。
十人の盗賊たちは全員手足に怪我を負った。
リーダー格の男がルナに近づこうとするが、今度は「オアロ」で身動きが取れなくなる。
「何だこれは? 動けねえ。。」
「さっさと帰れ! さもなければさらに強い魔法をかけるぞ」
ルナがひと睨みすると盗賊たちは怯んだ。
本物の魔女の力を初めて体験してこれは敵わぬと悟ったのだ。
「おい、引き上げろ!」
リーダーの男の引き上げの合図で盗賊たちは退散した。
「引き上げたようだな」
ルナがほっとひと息つくのも束の間で、村人たちからまだ安心できないと言われる。
「今のは回収担当の下っ端です。次はおそらく親玉が出て来るでしょう。親玉を倒さない限りあいつらはしつこくこの村を襲って来ます」
「親玉がいるんだね。わかった、そいつさえ倒せば今後この村を襲う事もなくなるだろう」
「大丈夫なんですか?」
「盗賊の五十や百くらい私にとっては軽い運動程度だよ。心配しなくていいよ」
「あなたは私たちにとって救いの神です。どうかこの村をお守り下さい」
村人たちの期待に応えるためにもこの村を守らなくてはとルナは思うのだった。
「問題は人質に取られている女性たちの救出だね」
☆☆☆
「やられただと?」
「へい。女一人なんですが、こいつが魔女でして。。魔法を使われてこの通りでっさ。それで親分に加勢してもらおうと」
「魔女か。そいつは面白い。お前たち行くぞ」
盗賊の親玉であるモーリスが盗賊たち全員に号令をかけるが、一人の男が手を振って行くのを拒む。
二十代中盤、二十四、五歳くらいであろうか。
帽子を被りマントを羽織り、髭を生やしているが美形と言っていい顔立ちである。
「やめときな。怪我して帰ってくるだけだぜ」
「ミルコ、てめえ臆病風に吹かれたか?」
「俺が臆病風に吹かれるのは美女への愛の告白だけだ」
「ち。くだらねえ。戯言言ってねえでさっさとついて来い」
モーリスの号令に三十人を超える盗賊たちが一斉に動き出す。
「やれやれ。命あっての物種だと思わないのかね」
ミルコと呼ばれた男はあまり気の乗らない戦いに一番後方にいた。
「魔女か。どんなものなのか拝見させてもらうとするか。美人なら助ける。そうでなければ。。それなりにだな」
ミルコはふと思い出したようにアジトに引き返す。
人質となっていた村の女性たちを逃すためだ。
女性は全部で十人いた。
「おい、いま奴らは全員お前たちの村に出払っている。逃げるなら今のうちに」
ミルコが牢の鍵を剣で叩き壊して開錠すると、女性たちは一斉に牢から外に出た。
そしてアジトから少し離れた場所まで避難させると女性たちに今すぐに村に戻らないように注意を促す。
「今、村に戻っては危険だ。奴らが村を襲っているからな」
「でも、私たちあの村にしか帰る場所がないんです」
女性たちの言葉にミルコは安心しろと笑顔で答える。
「心配するな。村には救世主が来ているようだからな。それに俺も少しばかり加勢するかもしれん」
「救世主?」
「とりあえずここに隠れていろ、二時間経ったら村に戻るといい。その頃には盗賊たちは退散しているだろうからな」
ミルコの言葉に女性たちはお互いに顔を見合わせて半信半疑であったが、盗賊たちが一人もいないという事は村を襲っているのだと想像がついたので、話し合いの末に彼の言葉に従う事にした。
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